【これまでのあらすじ】
悪の総帥モリアーティ教授を降霊術で
呼び出そうとしたホームズたちだが、
ボヘミアに行くことにする。
稀代のハガキ職人アイリーン・アドラー嬢の
ボヘミア亡命を阻止するためだ。
パスポートも無事取得してボヘミアの王都
プラハにやってきたのだが、
聖ヴィート教会の地下迷宮でホプキンス警部が
謎の怪人物に誘拐される。
何とか助け出したホプキンス警部を男爵令嬢に仕立て
上げようとする。
その演出のために女性をバイトで雇おうとするが、
なんとその女性がアイリーン・アドラー嬢だったのだ。
アドラー嬢はホームズ達に挑戦的な言葉を吐き、
去っていった。
ホームズ達は亡命事件の謎を解くために
闘志を燃やすのだったが、なんと衆人環視の場で
ヴィルヘルム・ゴッツライヒ・
ジギスモント・フォン・オルムシュタイン
ボヘミア国皇太子が失踪してしまったのだ。
そしてボヘミア国首相に犯人からの手紙が届く。
「皇太子の身柄は我々の手の内にある。
3日の間の完全なる静寂を望む・K」…
一体犯人の正体は!?ホームズの推理が冴える!

 
  

そうだな、冴えるな。
かなり冴えるな。

自分で言うなよ。

 
 
そうは言っても冴えるんだから仕方ない。
そんな気がするよ。
気がするだけか。  
   

いや、というより
「推理が冴える」という
僕の推理なのだよ。

推理?

 
   

この僕の綿密な推理の結果、
今日僕の推理は冴えるという
結論を導き出したのだよ、
ワトスン君。

綿密な推理って?
 
   
まず、今日の僕はすこぶる体調がいい。
ほう。
 
   

いつもならほんの3時間常温に放置した
生牡蠣を食べただけでおなかを壊すのに、
今日は5時間放置した牡蠣を食べても
なんともない。

それを食おうという思考がよくないんじゃないか。

 
   
そして今日、ワトスン君やホプキンス君や
レストレードのやることなすことすべて
予測がつくのだよ。
え、そうなのかい。  
   

君が赤いネクタイをすることも
僕は目が覚めた瞬間に推理
できたね。

それはすごいが、本当なのかね。  
 

もちろんだ。
レストレードが朝食のカフェオレを
ひっくりかえすのも、ボヘミア国首相が
カビンで頭を強打するのも、
ホプキンス君が可憐でキューティなのも
みんな推理ができていたのだよ。

たしかにレストレード君は今日の朝、
カフェオレをひっくり返していたが、
ボヘミア国首相が花瓶で頭を強打したなんて
聞いてないぞ。

 
 
そこが推理だよ。
たしかにここは首相官邸からも
王宮からも遠く離れたしがない民宿だ。
だが、僕の推理によると、今日の朝、
ボヘミア国首相がカビンで頭を強打した
ことは手にとるようにわかるのだよ。
 

へえ、そうかい。
じゃあ首相が来たら聞いて見ることにしようか。
あと20分もすればここに来るはずだから。

 
 

いや、15分だ。

ほう、それも推理かね。
 

むろん推理だよ。

約束の時間より5分来るのが早くなるのには
どんなわけがあるんだい?
 
 

まあ簡単な推理だ。
ここから首相官邸までは馬車で
20分はかかる。約束の時間が
10時30分だ。しかし首相というのは
時間に縛られた仕事だ。分単位で
仕事をこなさなければならない。
そういった人間は10時とか11時とか
きっかりに動きはじめたがるものなのだよ。

そういうものなのかね。  
 

だから首相は10時に官邸を出る。
このあたりにつくのが10時20分だ。
しかしこのあたりは少々入り組んでいるから
この民宿を探し出すのに5分ほどかかる
だろう。だから10時25分につく、という
わけだよ。


ふーん、まあそう聞くともっともらしいがね。
まあ15分待とうじゃないか。
しかし待つ15分というのは長いものだがね。
 
 

では、僕が考えた時間つぶしでも
やるかね。

なんだね時間つぶしって。

 
 

僕は探偵という仕事上、
長時間の張り込みをすることもある。
張り込みというのはとにかくヒマなものだよ。
そういったときにこの時間つぶしをすれば
一時間や二時間や十日間など、あっと
いう間につぶせてしまうのだよ。

それで張り込みはちゃんとできてるのかい?  
 

まず、この大英帝国の歴代国王を
ウィリアム征服王から順に思い出すんだ。

そういわれるとなかなか思い出せないなあ。  
 
そして、その歴代王の頭の上に
リンゴを…

いや、ホームズ君、
一体なんだね私をこのようなところに
呼び出したりなんかして。
約束の時間には5分ほど早いが
おじゃまするよ。

 
 

ああっ!もうっ!
ここからが面白いのにっ!

うわっそれだけでもう10分たってたのかっ!
なんて人生を無駄にする時間つぶしなんだっ!

 
 

そんなことより
本当に首相閣下が来られる時間を
ぴたりと当てたろう。
さあ、僕をほめたたえるとよいよ
ワトスン君。

まあ、ほめたたえるほどではないがね。

 
 

では首相閣下に
ほめたたえてもらいましょうかな。

あのっ、なにを言っておられるんですか。
まったくいきさつがわかりませんが。
だいたいなんでこんな民宿にお呼びになられたのか
それもわかりませんし。

 
 

はっはっはっはっは、見たまえよワトスン君。
この首相閣下の推理の冴えてなさぶり。

冴えてないというか普通の反応だよ。
 
 
まあそんな首相閣下やワトスン君は
気づかなかったかもしれないがね、
この小汚い民宿、これこそが事件の
核心なのだよ。
ええっ!?
一体どういうことだい!?
 
 
まあ、今日の僕の冴えに冴え渡った
推理がついにこの長い長い長い
怪事件の真相にたどり着かせてくれた
わけなのだよ。
赤いネクタイのワトスン君に
カビンで頭を強打した首相閣下。

ええっ!?
なぜ私が朝食の時にテーブルの上から
転げ落ちたゆで卵を拾おうとしてテーブルクロスを
ひきずりおとして食卓がめちゃくちゃになり、
あわてふためいて部屋の中を右往左往して
家具にぶつかり倒し、物音に驚いて入ってきた
秘書官のオットー・フォン・カビン君とはちあわせして
頭を強打したことをなぜご存知なのですっ!?

 
 
まあ単純な推理の結果ですよ、
首相閣下。

ほんとかよ。

 
 

とにかく我々はあとほんの少しの時間で
事件の核心に到着することができるの
だよ。
ホプキンス君とレストレードが帰ってくる
までの、ほんの少しの時間だよ。

そういえば、
ホプキンス警部もレストレード警部も
朝からいないな。

 
 

ああ、ホプキンス君は
すぐそばにいるよ。

え?
 
 
なあホプキンス君、どうだね。
 

はい、ホームズさん。
たしかにホームズさんのおっしゃるとおりでした。

 
 

わっ!?
床下から声がっ!?

こっこれはっ!?

 
 

ワトスン君、君もずいぶんうかつだぞ、
この民宿の窓から見えるあれはなんだい?

あれは…!

 
 

聖ヴィート教会!?

どういうことだいっ!?

 
 

そう、もうずいぶん前のことのように
感じるかもしれないが、
ホプキンス君を拉致しようとした男がいた
聖ヴィート教会の地下の謎の迷宮!
それがこの薄汚れた名前をあげる必要すら
ないこの民宿の一室に通じているのだよ!

ええええええっ、何で一度も来たことのない
民宿に地下迷宮がつながってるなんて ことに
気づくんだっ!?
 
 
そのへんが僕の推理が冴えに冴え渡っている
証拠なのだよ!
そう、これこそがまさにミステリーの真髄!
ミステリーファンに殺されるぞっ!
 
  

こんな僕の冴えに冴え渡った推理が
さらにグレードアップ!
明らかになる事件の真相!
衝撃の真実!
そしてホームズとホプキンスの愛の行方は!?
次回をお楽しみに!

おいっ!  

 

はたして本当に次回で真相が明らかになるのか!?
つづく!

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