ナポレオンについてどう思うかね、
ワトスン君。

ナポレオンというとフランスの皇帝かね。

 
 
ナポレオン・ボナパルト
(1769- 1821)
コルシカ島の生まれでフランス革命の
動乱時に軍人として名声をあげる。
ブリュメールのクーデターで政権を掌握し、 皇帝に即位する。
活発に軍事活動を展開し、イギリス・
プロイセン・オーストリア・ロシアなどと
各地で戦い、一時はヨーロッパの大半を
制圧するがライプツィヒの戦いで破れて、皇帝を退位させられ、エルバ島に流刑になる。
ところが、戦後のヨーロッパの方針を決定するウィーン会議が行なわれている最中にエルバ島を脱出、ふたたび皇帝に即位する。
しかしワーテルローの戦いでふたたび破れ、 太平洋の孤島セントヘレナに流刑になりそこで生涯を終えた。
民法典の基礎となるナポレオン法典を制定したこと、各国に国民国家の概念を広めたこと、戦争の近代化などの功績をあげるものもあるが、ヨーロッパ各地に戦火を拡大したこと、軍事的独裁を行なったことに関しては強い批判もある。しかし、後世に強い影響を与えたことは誰もが認めるところであるナポレオン・ボナパルトだよ。
えらく細かい説明だなあ。  
   

我が大英帝国としては敵対した者として批判する立場も多いが、その強い個性に惹かれるものも多い。フランスでは今も英雄として尊崇するものも多く、甥のナポレオン3世による第二帝政の成立をももたらしたナポレオン・ボナパルトについてどう思うかね、不世出の英雄だとは思わないかね。

そうだなあ、僕は…

 
   
不世出の英雄だと思わないかね?
 
う…  
   
思わないかねったら思わないかね?
うううう…け、見解を押し付けるなよ…  
   
思え!さあ思え!

うあああああああああああ

 
   
うははははははあはははは!
とたとたとたとた。
ホームズさん、ホームズさん、
お客様ですよ。
 
   

ちっ、もう少しでこの電極を脳に埋め込めるところだったのに。ウェリントンかベルナドットか。

はあ、はあ…。  
 
まあ、ナポレオン様のすばらしさを広げようとする僕の試みを阻害するような奴が持ち込んでくる事件など、どちらにしてもろくでもない事件に違いないよ。
ホームズさん、ワトスンさん、お久しぶりです。
スコットランドヤードのホプキンスです。
 
 
おおおっ…ホプキンス君…
あいたたたたたったたたた
 
ど、どうかされたんですか?  
 
いや、ちょっと頭が痛くなってね…
ふう、もう大丈夫だ。

人の頭開けて電極を埋め込もうとした奴が、どの面下げて頭が痛いだ。

 

さて、事件なのかね、ホプキンス君。
ちょっと今はあんまり気が乗らないんだが…
腹が減ってね。
ワトスン君、ハドスン夫人に言ってナポリタンでも作ってもらってくれないか。

そう言わずにお願いします。
こんな複雑怪奇な事件は、ホームズさん以外に頼める人がいないんです!
 
 
……まあ、とりあえず、言うだけ言ってみてくれよ。
はい、実は個々のところ奇妙な事件が連続して起こっているんです。新聞紙上でも大きく取りざたされているんですが…  
 
いや…ここのところ新聞を読んでいないのでね。
ええっ?連続ナポレオン像破壊事件、ご存じないんですか?  
 

なにいいいいいいいいいいい!

わっ!  
 

あの不世出にして光輝ある大皇帝ナポレオン陛下の像を破壊する、バカヤローな不逞の輩にして曲学阿世の徒は、この僕が必ず捕らえてみせるっ!

そ、そうなんですか。  
 

さあっ、ホプキンス君、犯行のあらましを語ってくれ。僕に犯人を捕らえるための情報をくれ、そして語ってくれ。

は、はい。
まず最初に、ケニントン・ロードのモース・ハドソンの店に賊が侵入いたしまして、置かれていた石膏のナポレオン像が粉々に砕かれていたのです。

 
 
ぐっ!
義憤のあまり思わず頭も痛い!
そのような大罪を犯した奴の頭蓋骨も粉々にしてしまいたいっ!

賊は店内の貴金属や宝石に目もくれず、像だけを破壊して去ったのです。
そしてその翌日、医師のバーニコット氏の家と病院に置かれていたナポレオン像も粉々に砕かれていたのです。

 
 
なんと!一つならず二つまでも!
うぬう!
許さん!許さんぞ!
それにしてもどうして病院にナポレオン像が?  
 
決まってるじゃないか!
ナポレオン療法だよ!
ナポレオン皇帝陛下の偉大なるご威光におすがりして、ガンや水虫を治すという奇跡の療法だよ!
…ホームズ、忘れてるかもしれないが、僕は医者だよ。  
 

だまれっ!偉大なる真理に到達できない医者など、終生間黒男と名乗って法外な治療費を取って過ごすがよいわ!

まだ20世紀初頭だよ。  
 

ううむ、どうしてくれよう。
犯人どもめ。

あの、それだけでなくて、
ピット街の新聞記者、ハーニー氏の家でもナポレオン像が破壊されていたんです。
 
 
なんとっ!世も末だ!
うぬぬぬぬぬぬぬぬぬ!
そのような奴らはマレンゴにして煮込みきってくれる!
フランスの鳥煮込み料理にしてどうする。
しかしいろんなところにあるものだねえ。
ナポレオン像は。
 
 
馬鹿者!
いいスクープ記事が書けそうにもない新聞記者がひとたびナポレオン像の前に立ったとき、次から次へと記事が頭の中に浮かんでくるという効果を知らんか!

捏造じゃないか。

 
 
!となると、次は、サンドフォード氏のナポレオン像が危ない!

ええっ!?
犯人の目的がわかるんですか!?

 
 

決まっているじゃないか、
こんなに執拗にナポレオン皇帝陛下の像を破壊しようと目論む奴らだ、きっと偏執的な反ボナパリストだ。そんな奴らがサンドフォード氏のナポレオン像に目をつけないわけがない!

そんなに有名なナポレオン像なのかい?

 
 
あのサンドフォード邸の地下深くの洞窟に掘られた、全長10メートルの大ナポレオン像!
かがり火に照らされた金メッキのナポレオン陛下のご尊顔のなんと神々しいことか!
そんなでっかいものがあったのかい。  
 
なんだ知らないのかい?
あんな有名なところを。

そうなのかい?

 
 
毎年5月5日のナポレオン陛下の忌日にフランス王統派やメッテルニヒに似た人間をいけにえにささげる大ナポレオン祭もしらないのかい?

邪教じゃないか。

 
 

とにかくあの大ナポレオン像を守らねば!そのためにはこの身をささげても悔いない!
行くぞ!ホプキンス!ワトスン!

…なんだか、いつもと違いますねホームズさん。
といっている間に外にでてしまいましたが。

 
 

何を言ってるんだね。
無理のある場面展開だな。
そんなこといってると置いて行くぞ。

たしかにいつもと違うような気もするな。
いつもがいいわけではまったくないが。

 
 

ワトスンさんもそう思いますか?
やっぱりおかしいですよね、
ホームズさん。

ほんとにおかしいですね。

 
 

だあああっ!やかましいっ!
やかましいぞっ!きさまらっ!
このナポレオン陛下ご遺愛のタマネギでもくらえっ!

ああっ!やめてくださいっ!やめてください
ホームズさんっ!
ああ思わず涙が。
ぽとん
 
  

ああっ!
涙を頭に落とすなっ!
かゆいっかゆいぞっ!
ぼりばりぼりばり

あれ?

ホームズさん、頭に何か金属板が…」
 
 

えっ?どれどれ?
わっ!こ、これは電極!

そ、そうか!僕の頭に電極がうめこまれていて、それであんな熱心なナポレオン党に…
ありがとうホプキンス君!
これぞ、まさに愛の奇跡!
 
  愛とは違うと思うがなあ。

 

無事解決!
次回のホームズの活躍があればお楽しみに!

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