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わとすんくん、わとすんくん。 ドアを開けておくれよわとすんくん。 | | |
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なんだなんだこんな朝っぱらから。 子供が僕に何の用なんだ。 | |
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わとすんくん、わとすんくん、 ぼくだよわとすんくん。 | | |
| わっ!ホームズ! どうしたんだその声は! | |
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はっはっは、驚いたかい。 これが僕の変装術の一つ、逆声変わりだよ。 まるで子供のような高い声だろう。 |
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逆と言っても声を変えてることには違いないけどなあ。 | |
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この子供の声を使うことで、どこにでも子供として潜入することができるのさ。 | | |
| 声は子供かもしれないけれど見た目はおっさんだぞ。 | |
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なに、世の中の人というのは意外と他人のことを見ていないものさ。 声が子供なら相手を子供と思ってしまい、見た目なんかは気にしないものさ。 |
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| そういうものなのかあ。 | |
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さっきも道端でおもちゃを振り回して楽しく遊んでいたが、誰一人怪しい目を向ける人はいなかったぞ。 | | |
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| ああ、ミルヴァートンの事を調べていたんだったな。 | |
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| ほう、するとだいたいのことはわかったんだな。 | |
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チャールズ・オーガスタス・ミルヴァートンは1851年にエセックスで、裕福な高級官吏の子として生まれた。 両親はよく自宅に政治家などを招いてパーティを行なっていた。 そこで人間社会の何たるかを学んだのだろうな。 |
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ふーむ。 | |
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その後、オクスフォードに入学したが2年ほどで失踪している。 | | |
| 失踪?なぜ? | |
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そこにはいろいろな噂がある。ある者いわく、恋人と駆け落ちした、ある者いわく、教師を殴った、ある者いわく、父親が破産した、とまあはっきりしたことはわからない。 |
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うーむそのへんにミルヴァートンが恐喝王になったわけがありそうだな。 | |
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そう、その20年後に舞い戻ってきたミルヴァートンは恐喝稼業をはじめていたと言うことさ。 | | |
| ふーむ、しかしそれだけじゃどうしようもないな。 | |
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いや、収穫はあったよ。帰って来たミルヴァートンは夫人と女の子を連れていた。 おそらくミルヴァートンの子供だろう。 だが、現在ミルヴァートンは独身だ。その妻子がヨークシャーの田舎町にすんでいるらしい。 そこに行けばミルヴァートンの尻尾がつかめるに違いない。 |
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| 恐喝王の家庭、か…。 | |
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| おおっホプキンスくんっ! 飛び散る汗と荒い吐息がまた僕の心を波立たせるっ!
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ミルヴァートンの妻と息子がサフォークの田舎町に住んでいるそうですっ! | | |
| え? | |
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| ホプキンス警部もミルヴァートンのことを調べてたんだったね…。 | |
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はい、チャールズ・オーガスタス・ミルヴァートンは1842年に貸金業者の長男として生まれ、18歳の時に父親が死んで店を引き継いだのですが、20歳の時に突然謎の失踪をとげたのです。 そして20年後に現れた彼は夫人と息子をつれていて… |
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うわあホームズの調査とまったく違う。 | |
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そんな!僕の調査に間違いはない!しかし地上に降りた最後の天使であるホプキンス君の調査も間違っているとは思えないっ! | |
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| これは…あくまで僕の推論だが… ミルヴァートンというのは単なる一人の個人じゃなくて、数多くの別々の人生を歩んできたミルヴァートンたちが集合して人の形を作ることにより、人の目には一人の人間にしか見えない群体なんじゃないだろうか…。 | |
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| うむ。確かにサンゴやツリガネムシに恐喝された覚えは無いな。 | |
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| おそらくミルヴァートンは用心深く、自分に関する偽りの情報を流しているんだ。いくつもの偽の情報を流すことによって、本当の情報を埋没させる…。 | |
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| しかし、そこまでして過去の情報を隠さなければならないのかい? | |
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おそらく、彼の過去には本当に知られたくない秘密があるのでしょう。 そしてその秘密こそが、ミルヴァートンの最大の弱点…。 |
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| うーむ。 | |
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ホームズっ!ロンドン郊外にミルヴァートンの妻と叔父がいるらしいぞっ! | | |
| マイクロフトさんも偽情報を。 | |
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なにっ!? 1844年にバイエルン貴族の子として生まれ、34歳までバイエルン軍に勤務していたが、謎の失踪をして20年後に現れたときには妻と叔父を連れていたと言う、私の調査結果が偽情報だとっ!! |
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落ち着いてください。 それと全然違う調査結果をホームズとホプキンス警部が出しているんです。 おそらくミルヴァートンは自分の過去に関する偽の情報を流しているんです。 | |
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はっはっは、まったく兄さんも老いぼれたものだねえ。 | |
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同じように偽情報をつかむあたりが兄弟だなあ。 | |
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ホームズさんホームズさん! このアパートの3階にミルヴァートンの妻と従兄弟の嫁が住んでいるらしいですよ! | | |
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ちょっとこれは今までに無いほどひどい偽情報だなあ。 | |
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治承四年の壇ノ浦の戦いで敗れた平忠元スティーブンが、ロンドンに落ち延びて庄屋の娘と結婚し、生まれたのがミルヴァートンだというんでーす! |
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ひどい情報にもほどがあるなあ。 | |
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そしてそのミルヴァートンの子孫がユダヤ人と宇宙人とナチスの残党と結びついて今もなお全世界の経済を裏であやつっているんでーす。 |
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まだ第一次世界大戦も始まってないぞ。 | |
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何か手は無いのかねえ。 | |
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ヤードの上層部に働きかけてみましたが、だめでした。どうやら要人にも恐喝されているものもいるようです。 |
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催眠術に詳しい人間でも奴の分析はなかなか難しいようだな。ミルヴァートンの腕は超一流らしくてな。 | |
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何だとそれじゃ八方ふさがりじゃないかっ! この無能っ!三角形ハゲ!色眼鏡! | | |
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何だとこのっ! | |
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| ああもうやめろっ! | |
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ちょっとっ! 3階のミルヴァートンですけどっ! ホームズさんちょっと静かにしてくれませんかっ! こっちまで響いてるんですよっ! | |
| うわああっ!? | |