| うーむ、いい正月だな。 |
そうかな、はたして。
| こんなにケーキやプディングやチキンに囲まれた正月の何が不服なんだね、ワトスン君。 |
だから不服なんだよ。
| こんなにあるうえに、タダなんだぞ。 |
クリスマスの残りものだからこそ、安価に、あるいはタダで入手できるのだよ。 |
| いいじゃないか、イギリス人なんだし。 |
普段こだわらないのであれば、ここぞという時にこそ、普段以上にこだわらない。それがメリハリというものだよ。 |
やなメリハリだなあ。
……………。 |
……………。 |
| ………嫁がほしい。 |
おい。
具体的に言うとあの可憐で清楚なホプキンス警部がほしい。 |
犯罪だぞ。
| 光輝く大英帝国建築の裏には、こうした犯罪が人知れず積み重ねられているのだよ。 |
今知ったからやめてくれ。
| しかしまあ結婚は人生の墓場ともいうがな。 |
| そうだな。しかし、ひとつ注目してほしいことがある。 |
なんだい。
墓場のアリはすごく大きいということだ。 |
| あれはたぶん、お供え物とかを食べるから大きく育つのだ。 |
そして、墓場と結婚は同じものだという。 |
| つまり、結婚にはアリを大きくする力があると考えても間違いではないわけだ。 |
つまり、僕が結婚するということは…アリが大きくなって、近所のオオアリクイが喜ぶ！ |
いるのか近所にオオアリクイ。
| あいつを喜ばしてやるのも癪だしな、しばらく結婚は諦めよう。 |
まあこのサンタ人形でも食いたまえ。 |
さっきから何人サンタ食ってるんだ。
| 352人から後は数えてないな。 |
| しかし、正月というのも暇だな。 |
大体の時期暇だけどな。
こういう時にこそ事件の一つや二つ起こってもしかるべきではないのかね。 |
おそらくクリスマスだの正月だので、金持ち連中は一つの家に集まるだろう。すると事件がおこるというものだよ。 |
| 毎年こうした事件が何かしらおきるものだよ。それなのになんだ今年は。正月らしさのかけらもない。 |
さっきまでいい正月だって言ってたじゃないか。
ああひまだひまだひまだ。 |
うるせえなあ。
| 仕方がない、とっておきのケーキでも食べるか。 |
あれ？おい、ワトスン君、ここにあったケーキ、盗んだだろ？ |
盗んだという前提で言うな！盗んでないよ！
| おかしいなあ、きれいさっぱり、クリームの一片に至るまで無いぞ。 |
食べたのを忘れてるんじゃないのか？
| そんなわけがあるか。この部屋のケーキの位置はすべてこうしてメモに取ってあるんだ。 |
じゃあ一体…。
| むっ！これは…ペロッ！…アリ！ |
そうか！ケーキを盗んだのは、この部屋をびっしりと埋め尽くす、アリどもの仕業なのだ！ |
| しかしなぜこのようにアリが… |
そうかっ！近隣の結婚家庭ども、そろってどこかに行きやがったな！それにオオアリクイどもがついていったから、この近辺のアリが繁殖し放題なのだ！ |
きもちわるいっ！きもちわるいっ！
ちくしょう！結婚しておけばよかったあ!! |
うわああ服の中にアリがアリがアリがああっ!!