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ワトスン君、きみはしみ抜きについて詳しい医者ではないのかね? |
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な、なんだよいきなり。 | |
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どんな突発的だらけの人生なんだきみは。
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ともかくきみに聞いているのは、君がしみ抜きが得意かどうかなんだ。
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と言われてもなあ、服が汚れたら普通にクリーニングに出すしなあ。 |
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なんなんだよいったい。 |
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……。 |
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基本的に君といる時の話は他人にしないようにしているよ。
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どういう意味か心当たりがあるからおこってんだろこの野郎。 |
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…まあいい。ともかくこの話は他言されると非常にやばい話なのだ。 |
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なんだよもう。 |
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実は今回の事件は、さるたいへん高貴な筋と関係があるのだ。 |
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というと…王室か…? | |
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それは僕の口からは言えない。だが、イギリス王室ハノーヴァー家、つまり現女王ヴィクトリア陛下の後はサクス=コバーグ=ゴータ家となるイギリス帝国の君主たる一族と関連があるとだけ言っておこう。
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もう言ってるじゃねえかよ。 |
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依頼者はさる大銀行の頭取だ。これも詳しくは言えないが、とてもお金持ちだと言っておこう。 |
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はあそれで。 |
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実はさるやんごとない家の後継者…仮にここでは皇太子殿下と言っておこう。
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仮にの意味を調べてから言えよ。 |
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この頭取にさる高貴な人物が、たいへん価値のある緑柱石がちりばめられた宝冠を抵当に、短期の融資をもとめたのだ。
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ふうむ、そんな方法で金を工面しなければならないとは、王族もたいへんだな。 |
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何しろ王族だからな、我々庶民が考えたこともないような交際費が必要なのだ。
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さらっと王族って言っているな。 |
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しかしそれが何であるかは、頭取もさすがに言わなかった。
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まあそりゃそうだろう。 |
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なんだこのしみだらけのきったない布は。 |
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頭取が事情は言うわけにはいかないが、といいながら、そばにあったテーブルクロスにさらさらっと、融資が必要な事情を書いたのだ。 |
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その頭取も君と同じ病気か。 |
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そうなると僕は、そんなくだらないゴシップに興味はない高潔な人間だろう?
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だろう?と言われても。
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そばにあったローストビーフのソースとコーヒーと紅茶をテーブルの上にぶちまけて、読めないようにしてやったのさ! |
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うわあ。
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それで僕が緑柱石の宝冠を見つけ出して、犯人も逮捕した後…
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おいさらっと解決すんな。
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ふと気がつくと、僕のポケットに不思議なものが入っているじゃないか。
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なんだよ。 |
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ポケットを探ってみるとなんということだ!あのテーブルクロスだ! |
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気づかないうちに入ってるもんじゃねえぞ。 |
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これはあれだ、おそらく僕の深層意識の中に紛れ込んでいた、王族の汚らしいゴシップを覗いて、のぞき見て、満足したいという下卑た欲望が生み出した、一種の奇跡なんだよ!!
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最悪の土壌から生まれた奇跡だな。 |
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なにがだ。
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このテーブルクロスからシミを取り抜いて、頭取の筆跡だけを読み取る方法はないものかね! |
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ゲスいなあ。 | |
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…そこまで必死になられると逆に引くなあ。まあいいよ。ともかくこういうのはだな、おーいハドスンさん
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ちょっとこの布のしみ抜きをしてくれないかい。 | |
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こういうことは専門家に任せるんだな。
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そうそう。
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でかい声で言うようなことじゃないけどな。
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できましたよできましたよ
ワトスンさん。
とたとたとたとた |
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うわっ、もうできたのかい。ありがとう。 |
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うわあっ。 |
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なになに…。タラ3尾、ジャガイモ300ポンド、ラディッシュ5株、食用油… |
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え。 |
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えっ。 |
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なんてことだ!我が光輝ある大英帝国皇太子殿下が、はじめてのおつかいに!!
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| おつかいで融資を受けるな王室。 |
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