続々々々々々々々々々々々々々々々々々々々々・智恵子(小)
はじめに
この物語はある作家(家族の強い要望により匿名)の智恵子(小)との深い愛憎の様子を作家本人が記した日記である。
作家自身は発表の場を求めていたが、家族の強い反対により、商業誌での発表は見送られた。そのため千年より作家の匿名、また作家を特定できるような個所の非公開を条件としてその一部をSAKANAFISHにて公表しつづけているものである。
6月15日
N社の太田垣君より、水蜜桃が届く。かなり早生のもので、甚だ珍重。
6月16日
N社の大村君より、水蜜桃が届く。珍品だが、2日連続で同じ社から同じものとは芸が無い。近年の会社というものは、斯様に気の利かぬものか。嘆息。
6月17日
N社の野田君より、水蜜桃が届く。またしてもか。さすがに食い切れず、智恵子(小)がジャムにするという。
6月18日
N社の何とかという男からあれが届く。流石に閉口。斯様なことではN社との付き合いも再考せねばならぬ。智恵子(小)がジャム作りの為大きな釜を買うという。夕刻、巨大な釜が届く。
6月19日
Nあれ。堪忍袋の緒も切れようか。N社の「T」の編集長である種田と近日逢う約束があるが、その際に怒鳴りつけてやろう。智恵子(小)がジャム作りの為に黒い帽子とローブを買うという。夕刻、それらの衣装が届く。
6月20日
NA。流石に苛立ち、N社に直接電話を掛ける。「モモガモモガ、モモモガ」等と訳の判らぬ事ばかり言って話にならぬ。あれが噂に聞くゆとり世代という奴か。嘆息。智恵子(小)がジャム作りのために巨大な魔法陣を書くという。夕刻、『誰でも7日で書ける!リナ・ヴィーグラーの簡単魔法陣レッスン』が届く。
6月21日
N。本日はそればかりでなく、T社の斉藤やB社の金成からもである。ツイッタァで愚痴ったのが不味かったか。智恵子(小)が、『誰でも7日で書ける!リナ・ヴィーグラーの簡単魔法陣レッスン』を読んでミルミル魔法陣書きが上達。流石はリナ・ヴィーグラーである。読者諸賢に強くお勧めしたい。
6月22日
NTB。いずれの社の電話応対もゆとり世代で話にならず。直接社長なり何なりに話をべきか。智恵子(小)、ジャム作りを始める。大釜に桃と砂糖を入れ、レモン果汁を加える。左様にして、果実中のペクチンが糖や酸と反応し、ジャム特有のとろみが生ずるのである。それもこれも、あの本の御蔭である。読者諸賢にも、『誰でも7日で書ける!リナ・ヴィーグラーの簡単魔法陣レッスン』を強くお勧めする。
6月23日
NTBYMUSA。桃を見るだけで憂鬱。日本の出版社が作家に桃を贈りつけるカルテルでも結んだのか。カルテルとは同業の会社が協定を結び、値段や生産数などを取り決めることである。日本では独占禁止法によって禁止されているが、『誰でも7日で書ける!リナ・ヴィーグラーの簡単魔法陣レッスン』はそのような社会悪と無縁なので安心してご購入いただきたい。智恵子(小)のジャム作りもますます好調。後は山羊の頭を買うだけだという。
6月24日
NTBYMUSAEE。仕方がないのでタクシーでN社に向かう。近年の高層ビルにしては珍しく木製。緑の葉も見える。扉にも木の根が張り付いており、入るのに難儀する。全くエコを履き違えている。
6月25日
N社に入ったものの、中がひどく薄暗い。エレベーターも動かず、階段には木の根や訳の分らぬ事を言い、隙を見て噛みつこうとする、ゆとり世代の肌が紫色の社員ばかりだ。仕方なくロビーと思しき場所でキャンプを張る。目指すは37階の社長室だ。
6月26日
5階営業課のトラップで思ったより酷い損害を受ける。藪医師橘を囮にして辛くも突破したが、先が思いやられる。
6月27日
12階の企画課にこんな奴がいるとは。そういえばN社には宝田という敏腕編集長がいたという。あの腕にある星のタトゥー、そして黄色い触手、間違いなく奴が宝田であろう。まさかこのような形で会うとは思ってもいなかったが。
6月28日
宝田は火に弱い!
6月29日
思ったより城井は歯ごたえがない。この調子だと社長の鈴本も大したことはないだろうと思っていたら、本当に大したことがない。愕然。
6月30日
まさか鈴本の背後に真の社長がいたとは!地下大社長室にある巨大な桃、それがマザー桃こと真社長の桃井だったのだ!すべて奴の仕組んだことか!桃井は青酸ガスを吐き出し、生身の人間なら絶息だ!愛用のルガーP08も通用しない!くそう、いったいどうすれば…
7月1日
智恵子(小)の呼びだした大悪魔アスモデウスによって桃井は封印された。いかに科学の力で異常発達した桃であろうと、人間の虚妄が生み出した悪魔には勝てないのだ!ありがとう、智恵子(小)!ありがとう、『誰でも7日で書ける!リナ・ヴィーグラーの簡単魔法陣レッスン』!