【これまでのあらすじ】
悪の総帥モリアーティ教授を降霊術で
呼び出そうとしたホームズたちだが、
ボヘミアに行くことにする。
稀代のハガキ職人アイリーン・アドラー嬢の
ボヘミア亡命を阻止するためだ。
パスポートも無事取得してボヘミアの王都
プラハにやってきたのだが、
聖ヴィート教会の地下迷宮でホプキンス警部が
謎の怪人物に誘拐される。
何とか助け出したホプキンス警部を男爵令嬢に仕立て
上げようとする。
その演出のために女性をバイトで雇おうとするが、
なんとその女性がアイリーン・アドラー嬢だったのだ。
アドラー嬢はホームズ達に挑戦的な言葉を吐き、
去っていった。
ホームズ達は亡命事件の謎を解くために
闘志を燃やすのだったが、なんと衆人環視の場で
ヴィルヘルム・ゴッツライヒ・
ジギスモント・フォン・オルムシュタイン
ボヘミア国皇太子が失踪してしまったのだ。
そしてボヘミア国首相に犯人からの手紙が…

 
  

うううう…

どうしたね、ホームズ。

 
 
うう…この首相執務室に入ったところに
大きな鷲の彫像があるだろう…
ああ、あるな、それがどうしたね。  
   

ここに入って来る時に、
急いで来たものだろう…

何しろ一国を争うかもしれんこと
だからな。

 
   

その鷲の彫像の台座に…

ああ、足の小指でもぶつけたかね。
 
   
いや、
この彫像の台座は、
かつてローマ郊外で発掘された
帝政ローマ時代の彫像の台座を
使っていると思うんだが…
え?
 
   

そこに小さな、かすかに見えないような
引っかき傷のようなラテン語の文字が
記されていて…

え。

 
   
「この変態探偵め地獄に堕ちろ」
と書かれていたんだ…
うわあすごい歴史の偶然。  
   

いわれなき誹謗中傷を!
おのれ古代帝政ローマめ!
滅べ!滅んでしまえ!

もうだいぶ昔に滅んでるぞ。  
 

あの…
ホームズ先生とワトスン博士は
何をしておられるのだね?

心配ありませんわ、首相閣下。
いつものことですから。

 
 
…いや、それはそれで心配なんだが
マッケンゼン嬢。
 
おっと
これは失礼しました、
簡単な顔の首相閣下。
 
 

犯人からの脅迫状が
届いたそうですな、簡単な顔の
首相閣下。

さあ、早く見せてくださいませ、
簡単な顔の首相閣下。
 

ううう…
こ、これだ、見てくれたまえ…。

うーん、これですか。  
 

わりといい紙を使っているな。
インクも上質だ。
脅迫状ならタイプライターでも
使えばいいのに手書きだ。

「皇太子の身柄は我々の手の内にある。
3日の間の完全なる静寂を望む・K」
これだけか…。
たしかに我々の想像もつかない内容だが、
どう受け取っていいかもわからないなあ。
 
 

完全なる静寂を望むというのは、
我々に動くなということだろうか…。

そうかもしれませんが、
なんとも判断がつきませんね。
これでは次の脅迫状を待つほか
ないですね…。
 
 

うーむ。

我々ということは犯人は複数なのかね。

 
 

いえ、そう簡単に判断はできません、
犯人が複数を装うためにこのような
書き方をしている、とも考えられますから。

なるほど、さすがは現場の意見だね
レストレード警部。
 
 

いえ、これはスコットランドヤード内の
情報誌「すこっとらんどやあど」 で
読みました。

…そうかね。  
 
ところで首相閣下、この手紙はどのような
経路でお手元に?
ああ、
これは最初は宮内大臣の部屋のテーブルの上に
置かれていたのだ。それをつい先ほど宮内大臣
本人が見つけたのだ。
 
 

では、宮内大臣閣下にお話を
うかがえますかね。

ああ、もちろんだ、
アドラー卿、すぐ私の部屋まで来てくれ。

 
 

…アドラー卿?

アドラー卿…アイリーン・アドラー嬢…
まさか…

 
 

いやまさかそんな安直な。

なんですかな、私の娘のイギリスで
ハガキ職人をしているアイリーンが
どうかしましたか。

 
 

うわあああ。

そのままかあああ。
 
 
ということは亡命ではなくて
ただの手の込んだ里帰りなのかああ!?
あんなロンドンに行ったきり手紙の一つも
よこさない娘のことはどうだっていいんです。
皇太子殿下を無事に救出することが
大切でしょうがっ!
 
 
では…
その犯人からの手紙が
机の上に置かれていた前後の状況を
お話いただけますか?閣下。

うむ、皇太子殿下が誘拐されてから、
我々は緊急に対策閣議を行なった。
それが終わってから夕刻17時頃に一度
執務室に戻ったのだが、その時には手紙は
なかった。
手紙が見つかったのは再度の閣議を行なって
部屋に戻ってきた先ほど、22時頃のことだ。
そしてその時机の上に…

 
 
その間の時間に
執務室に入ったものは?

いや…いないはずだ…
執務室のカギは私が持っているし、
窓から入ろうにもとても進入はできまい。

 
 

うーん…
ますます難しいことになって
きましたわね…

ヴィルヘルム・ゴッツライヒ・
ジギスモント・フォン・オルムシュタイン
ボヘミア国皇太子が突然消えたかと
思えば、突然手紙が現れる…まるで
手品だねこれは。

 
 

………。

ホームズさん、私はあなたが優秀な探偵であると
聞いておる。あのブレディネック事件を解決したと
いうのもな。今度の事件は我々にとってはあまりにも
複雑怪奇ではあるが、あなたにはもう、事件の
あらましがわかっておるのではないですかな?
 
 
……。

やっぱり国境を越えると情報ってのは
正しく伝わらないようだな。

 
 

ブレディネック事件って何ですか?

以前、誰も開けられなかった
ブレディネック社製のピクルスのびんの蓋を
ホームズが開けたことがあったけどなあ。

 
 

……。

ホームズさん。

 
 

………。

ホームズさん!

 
 

………。

ホームズ!
 
 
………。
宝田さん!
 
  

ぐー…。

うわあ。  

 

はたして手紙と皇太子の謎の正体は!?
つづく!

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