【これまでのあらすじ】
悪の総帥モリアーティ教授を降霊術で
呼び出そうとしたホームズたちだが、
皇太子の陰謀によって失敗する。
計画が頓挫した喪失感で自暴自棄になった
ホームズたちはフラワーアレンジメント教室で
日夜荒れ狂うのだったが…

 
  

イネ科の花なんか、
みんな緑じゃねえかっ!

おいホームズっ!
今いい加減なあらすじを言ってたの
モリアーティ教授じゃなかったかっ!

 
 

そうかもしれないなっ!
ワトスン君! だがっ!
黒バラや黒百合と言うのは
単に濃い紫に過ぎないのだっ!

人の話をきけっ!
 
   

アーレーンジーメーントーッ!!

ホームズさん!
目を覚ましてください!目を覚ましてください!
目を覚ましてください!目を覚ましてください!
目を覚ましてください!目を覚ましてください!
目を覚ましてください!目を覚ましてください!
目を覚ましてください!目を覚ましてください!
目を覚ましてください!目を覚ましてください!
目を覚ましてください!目を覚ましてください!
目を覚ましてください!目を覚ましてください!
目を覚ましてください!目を覚ましてください!
目を覚ましてください!目を覚ましてください!
目ヲ覚マシテクダサイ!目ヲ覚マシテクダサイ!

 
   

はっ!
ホ、ホプキンス君!
僕は…今まで何をしていたのだろう。

モリアーティ教授の
嘘あらすじの術によって
フラワーアレンジメントに取り付かれて
しまっていたんだよ。

 
   

お前には聞いとらんっ!!

何だとこの野郎っ!

 
   

さあっ、ホプキンス君!
僕に、君の言葉で真実を
聞かせてくれたまえっ!

はい、ホームズさん、かいつまんで
申し上げますと、
モリアーティ教授ががーっとして
ばーっとして、どっかーんとなって、
どどどべどじんとなったわけなのです。

 
   

ああ…。そうだったのか…。
ありがとうホプキンス君…。
心のもやもやがすうっと解けていくようだ…。
ありがとう…。ホプキンス君…。

何だその…がむやみに多い
しゃべり方は。
 
   

おかげで事件の概略が
わかってきたよ、ホプキンス君。
モリアーティ教授は、
ボヘミアにいるっ!

ええっ!?
どうしてそのようなことが
わかったのですかっ!?
愚昧なスコットランドヤードの
一警部に過ぎない私には
まったくなぜだかわかりませんっ!
どうかその理由を教えていただけ
ないでしょうか、お願いいたしますっ!
 
 

ふっ…。
教えてあげようか…。
そのヒントになったのは
この花を巻いている新聞紙だよ…。

おおっ、まさか
フラワーアレンジメントが
関係してくるとは。

 
 

これは先月の12日の新聞だ。
見たまえ、この記事だ。
「ボヘミア国皇太子、来英。」
来英だよ来英 。

 
はい、確かその時私もボヘミア国皇太子、
ヴィルヘルム・ゴッツライヒ・ジギスモント・
フォン・オルムシュタイン殿下の護衛の任に当たりました。
皇太子殿下は大変気品にあふれたお方で
それはもう私なども尊敬の念に打たれずには
おられませんでした。
御前に出れば誰もが皆、鞠躬如して
恐懼するほかない天性の気品をもたれておられる
方というのでしょうねえ。
 
 

そ、そうなのかね…。ははは…。
…ギリギリギリ…。

ホームズ、なんだかすごい顔になってるが、
続きを聞かせてくれないか。
 
 

ああ…
とにかくこの糞溜野郎の腸閉塞もどきな
皇太子の随員が問題なのだよ。
フォン・クラム伯爵だ。

フォン・クラム伯爵でしたら、
私もお会いしたことがあります。
立派なひげをおはやしになった恰幅のよい方でした。
ボヘミア国王…そうそう皇太子殿下は
このたび国王の位に即位なさることに
なっておられます。
その新国王陛下を輔弼するにふさわしい
忠良なる重臣と言った感じの方と
思われますが。 
 
 
ははは!
ホプキンス君、君もまだまだ
若いようだね!
この、フォン・クラム伯爵こそ、
ボヘミア国皇太子、
ヴィルヘルム・ゴッツライヒ・
ジギスモント・フォン・オルムシュタインだよ!
えええっ!?
一体どういうことだいっ!?
じゃああの皇太子は替え玉なのかいっ!?
一体何のためにっ!?
 
 

はっはっは、そう急くな急くな
ワトスン君。
ひとつずつ紹介していこう。
まずだ。
ホプキンス君が護衛したのは
間違いなく本物の皇太子だよ。
それは間違いない。

と、いうことはフォン・クラム伯爵というのは
皇太子殿下の変装の姿ということなのですか。
しかし、パーティーの席で、フォン・クラム伯爵は
皇太子殿下とともに参加してらっしゃいましたが。
私はその席で両方の方ともお話したのですが
それは一体どういうことなのでしょうか。
 
 

ふふふ…フォン・クラム伯爵と
皇太子がまったく同じ時に
現れたことはあるかい?

はっ!
た、確かに同じ時には現れておられませんでした!
し、しかしですよ、フォン・クラム伯爵が姿を
消された時からものの10秒もしないうちに
皇太子殿下がお見えになったのです!
いくらなんでもそんなに早く変装するというのは
不可能ではないのですかホームズさん!
 
 
確かに不可能だよ。
だが、皇太子も伯爵も
ずっと横を向いていなかったかい?
皇太子は右を!伯爵は左を!
…まさか、コントとかである
左半身は皇太子の格好で、右半身は
伯爵の格好をしているとか言う奴じゃないだろうね。

 
 

そのとおりだよワトスン君!

そんなもんにだまされる奴がいるかっ!  
 

そ、そういえば伯爵も
皇太子殿下も横を向いておられました!
伯爵が柱の陰に身を隠されると
皇太子殿下が、皇太子殿下が
柱の陰に身を隠されると
伯爵がお見えになったものです!

そのパーティーに出てた奴らは
全員アホばっかりかっ!
 
 

ワトスン君、言葉を慎みたまえ。
ボヘミア国皇太子歓迎パーティーに
出席されていた方々は
政府や各界の要人ばかりだよ。

…この大英帝国の未来は暗いなあ。

 
 

ともかく、ヴィルヘルム・ゴッツライヒ・
ジギスモント・フォン・オルムシュタインは
見事に大英帝国をだましおおせた
わけだよ。

しかし何のために皇太子は
そんなアホらしい芝居までして
フォン・クラム伯爵をでっち上げる必要が
あったんだい?

 
 

簡単なことだよ。
フォン・クラム伯爵に変装させた人間を
大英帝国からボヘミアに連れ出すためさ。


と、言うことは…! まさか…!
 
 

まったく、この新聞をもう少し
早く読んでいれば
事はもっと単純に行ったんだがね。

ということは、ボヘミア国皇太子殿下が、
モリアーティ教授を極秘裏に大英帝国から
連れ出したと言うことなのですか!?
いったい、 何のために!?

 
 

え?
モリアーティ教授?
違うよ。

 
違うんかいっ!  
 
まったく君達は勘違いも
はなはだしいよ。
いかに腸腐れの醜悪な
ヴィルヘルム・ゴッツライヒ・
ジギスモント・フォン・オルムシュタインとはいえ
一国の王になろうかと言う人物だ。
そんな犯罪者をかくまうような
恥知らずな真似をするわけないじゃないか。
今までの話の流れだったら
大体モリアーティ教授だと思うわっ!
 
 
このフォン・クラム伯爵に
変装したのは、ある一夫人――
アイリーン・アドラー嬢だよ。

アイリーン・アドラー嬢!!
も、もしやあの、アイリーン・アドラー嬢ですか、
あのアイリーン・アドラー嬢であれば、
それはもうたいへんなことにっ!

 
 

そう、まさにあの
アイリーン・アドラー嬢だよ。

アイリーン・アドラー嬢?
一体それはどんな婦人なんだい?
 
 

君は医者だから無理もないことだが、
たまには溶接関係の雑誌を
読んだほうがいいようだね。

よ、溶接?
溶接界の有名人なのかい?
 
 
あとは馬車雑誌と酢雑誌と
帽子雑誌と靴雑誌も
読んだほうがいいな。

…一体、何の人物なんだい。

 
 

アイリーン・アドラー嬢…
彼女こそは、ウィリアム征服王以来の
大英帝国の歴史の中で、最高の
ハガキ職人なのだっ!

 
ハガキ…職人?  
 

溶接雑誌「溶接界」の投稿コーナー、
「アセチレン」で年間チャンピオン、
馬車雑誌「車輪の下」の「車軸雨」では
金の車軸雨獲得、
酢雑誌「賞味期限切酒」の「三杯」では
特集コーナーが組まれ、
帽子雑誌「ウッド・ライスフィールド・タロー」の
「リトルウッズ」では、殿堂入り、
靴雑誌「靴」の「靴」では、靴に選ばれたと
いう、最強のハガキ職人なのだよ!

黒パン専門誌の「ライ麦」では、
巻頭グラビアも飾っていましたね!
 
 

ええっ!そうなのかっ!
ホプキンス君!ぜひそのバックナンバーを
譲ってくれないかっ!

………なんでまた
そんなハガキ職人をボヘミアの皇太子が
連れて行ったりするんだい?

 
 

知れたことだよ!
アイリーン・アドラー嬢が
ボヘミア国にうつれば、英国中の
雑誌の景品はすべてボヘミアに
持って行かれてしまうのだっ!
そうなれば、英国経済は破滅だっ!

…たかだかそれぐらいで
英国経済が破滅するとは思えないがなあ…。
 
 
ボヘミア皇太子がこんなひどいことを
するというのは
きっとモリアーティ教授が後ろで糸を
引いているからに違いない!
ホプキンス君、ワトスン君!
すぐにボヘミアに行くぞ!
アイリーン・アドラー嬢を大英帝国に
とりもどし、ついでにモリアーティ教授を
逮捕し、ついでに皇太子の野郎を
ボコボコにしに行くんだっ!
にしても今日はすごい推理力だな。
ボヘミア国皇太子の記事を見ただけで
ここまで推理するなんて。
いったいどうしたんだい?
 
  
うむ、さっき
この一風変わった花の種を
飲み込んでから、腹の中から
今まで行ったような事件のあらましが
聞こえてきたのだよ。
ホームズ、口の中から
その一風変わった花が見えてるぞ。
 

 

果たしてホームズ達はボヘミアの皇太子を
ボコボコにすることができるのか!?
つづく!

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