【これまでのあらすじ】
悪の総帥モリアーティ教授を降霊術で
呼び出そうとしたホームズたちだが、
ボヘミアに行くことにする。
稀代のハガキ職人アイリーン・アドラー嬢の
ボヘミア亡命を阻止するためだ。
パスポートも無事取得してボヘミアの王都
プラハにやってきたのだが…

 
  

いやあすばらしい青空だ。
ボヘミア日和とはこのことだな!

ほう、これがボヘミア日和なのかい。

 
 

そう、一転の曇りもない青空、
そしてほのかににおう、ハムを焼くにおい。
これこそがボヘミア日和だよ!

ハムは日和とは関係ないだろう。  
   

バカなことを。
ハムありきのボヘミア日和だよ。
ハムあってのボヘミアなのだよ。

ほう、そんなにボヘミアではハムが
有名なのかい?

 
   

そう、なにしろかつてのボヘミアの大公
オットー五世は別名をハム大公と
呼ばれたぐらいのハム好きだったのだよ。

ハム大公ねえ。

 
   

それはそうと
あの可憐で純情なドリティス蘭のような
ホプキンス君と
愚昧で醜怪なイボマンドラゴラのような
レストレード君はまだかね。
待ち合わせの時間はそろそろだろう。

そうだねえ、2時に聖ヴィート教会の前で
待ち合わせと言っておいたんだけど。

 
   

何しろ今回はボヘミア王家を
敵に回すかもしれない事件だからな。
大英帝国の警察官が堂々とやってくる
わけにもいかないといって
一般旅行者にまぎれてくるとは
言っていたが…それにしても
まぎれすぎじゃないか。

まあイギリス人らしい人を見かけたら
すぐわかるとはおもうんだがね。

 
   

うむ、我々大英帝国国民は
世界中のどこに行っても同胞である
大英帝国国民を見分けることが
できるからな。
太陽の沈まない帝国を築きあげたのも
その一点によっている。

まあなんとなくわかるものだよな。  
   

たとえば僕とワトスン君は見た目はまるで
ちがうが、それでもなんとなく大英帝国国民
スピリットが共通するものがあるから
わかるのだよ。

そうだなあ。  
 

世界のどこの牛丼屋でも
必ずフィッシュアンドチップスを
入れてしまうのは大英帝国国民だとか。

そんな奴は非国民と
言ってやりたいものだが。

 
 

だからこの聖ヴィート教会に
牛丼屋があれば一発なんだがなあ。

 
ないよそんなもん。  
 



なんということだっ!
ボヘミア人はハム大公オットー五世の
心を忘れてしまったのかっ!

ハムは好きでも
牛丼は好きじゃないんじゃないか。
オットー五世。
 
 

いや、牛丼好きだと、俺は信じる!
信じるッ! 信じるッ!信じるッ!
信じるッ! 信じるッ!信じるッ!
信じるッ! 信じるッ!信じるッ!
信じるッ! 信じるッ!信じるッ!
信じるッ! 信じるッ!信じるッ!
信じるッ! 信じるッ!信じるッ!
信じるッ! 信じるッ!信じるッ!
信じるッ! 信じるッ!信じるッ!

あーホームズさーんホームズさーん!
僕でーす!レストレード警部でーす!
 
 
なんだレストレード君か。
しかしこの人ごみでよくわかったな。
ええ、
ホームズさん特有の毒々しい
血走った病的な気配を感じ取りましたので
 
 

はっはっは、そうかそうか。
まったく君は憎憎しい
腐れバンダル・スリ・ブガワン
ラフレシアだよ。

ブルネイの首都にラフレシアなんか
咲いてましたっけ。
 
 

そんなことより
ホプキンス君はどうしたんだ?
一緒に入国すると言ってたじゃないかっ!
このボヘミアの異郷の地に
頑吹E無いいたいけな幼児を
ほっぽらかすなんて君は人間かねっ、
レストレード君!

君に人間性をうんぬんされる
レストレード警部も気の毒だな。
 
 
あああっ!こうしている間にも
ボヘミアのハムの臭気に
ホプキンス君が汚染されているかと
思うとっ!
あははははは。
ホプキンス警部なら
なんだか用があるからって
別行動をとったのですよ。
 
 

別行動?

ヴィルヘルム・ゴッツライヒ・
ジギスモント・フォン・オルムシュタイン
ボヘミア国皇太子について
調べるとか言って。
 
 

おおっ、さすがはホプキンス君!
さすがだ!調べるべきことを自分で
発見し、行動する!
まさに警察官の鏡!ただ単に
与えられた仕事ただこなすことのみに
汲々としながら、それも達成できない
レストレード君とは雲泥の差だ!

はっはっは、まったくですねえー。  
 

ちょっと怒ったほうがいいんじゃないか
レストレード警部。

では、その間僕たちは
どうすればいいんですかねー。

 
 

まずは宮廷の様子を探ることだ。
アイリーン・アドラー嬢が堂々と
姿を現しているとは思えんが、
皇太子近辺の様子を探ることで
手がかりは必ずつかめるだろう。

なるほど。しかし宮廷に潜入といっても
そう簡単にはいかないだろう。
どうやって潜入するんだい?

 
 

ふっ、そのへんにぬかりはないよ。
ちゃんと考えてある。

おおっ。  
 

まずはボヘミア国の議会選挙に
立候補し、当選するんだ。
そして議会内での勢力を伸ばし、
議長もしくは大臣に就任するんだ。
そうすれば宮廷での席次も上がり、
やすやすと宮廷に出入りできるわけだよ。

何年かかるかわからんわっ!
実現可能性もはなはだ薄いしっ!
 
 

無理じゃないっ!
すべての国民が政治に参加する
権利があるのだっ!それが近代社会と
いうものだっ!

 
ホームズさんボヘミア国民じゃ
ないじゃないですか。
 
 
しまったっ!そうかっ!
ボヘミア国の憲法では外国人
参政権を認めていないっ!
ううう…レストレード君、
君がもたらすのは
いつも暗鬱な現実ばかりだっ!
やだなあ、ほめすぎですよ。  
 
仕方ない。次善の策をとろう。
ドイツ帝国内のハノーファー王国は
女王陛下の縁戚であるから
イギリスとも縁が深い。
そこの貴族の一行ということにして
宮廷に潜り込もう。

そっちの計画のほうがはるかに
まっとうじゃないか。

 
 

僕の古くからの知り合いに
ハノーファーの貴族がいる。
マッケンゼン男爵といってね、ハノーファーを
はなれてロンドンに住んでいるんだ。
こんなこともあろうかと彼とは事前に
話をつけてきたんだ。

立候補の準備はしてなかったのか?
 
 

マッケンゼン男爵には娘がいてね。
ホプキンス君にその娘の役を
やってもらおうというわけだ。

なるほど。一見幼女のホプキンス警部なら
怪しまれずに情報収集できるな。
 
 
レストレード君には家庭教師の役、
そして君には乳母の役をやってもらおう。

う、乳母っ!僕は男だよっ!

 
 

そのヒゲを生かす時が来たじゃないか。

 
生かせるかっ!  
 

そして僕は…
ホプキンス君の婚約者として…
うふっ。

怪しいっ!
怪しいったらないぞこの一行っ!
 
 

とりあえず役作りは
ホプキンス君が帰ってきたら
することにして。
それまではプラハの観光でもしようじゃ
ないか。

何が悲しくてこんなことを。

 
 

とりあえずこの聖ヴィート教会でも
見て回ろうじゃないか。

まあプラハ一の教会だそうだからな。  
 
見たまえ、あの14世紀のステンドグラス。
美しいだろう。 まさにゴシックの典型だよ。
あれが神聖ローマ皇帝カレル四世の棺だ。
壮大だなあ。
歴史の重みを感じるなあ。
 
  
そしてこれがホプキンス君の帽子だよ。
なんだか血がついているところに
ミステリーを感じるねえ。
おいいっ!  

 

一体ホプキンス警部の身に何が!?
アイリーン・アドラー嬢とはどんな関係が?
謎が謎を呼ぶボヘミアの醜聞!
つづく!

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