【これまでのあらすじ】
悪の総帥モリアーティ教授を降霊術で
呼び出そうとしたホームズたちだが、
ボヘミアに行くことにする。
稀代のハガキ職人アイリーン・アドラー嬢の
ボヘミア亡命を阻止するためだ。
パスポートも無事取得してボヘミアの王都
プラハにやってきたのだが、
聖ヴィート教会の地下迷宮でホプキンス警部が
謎の怪人物に誘拐される。
何とか助け出したホプキンス警部を男爵令嬢に仕立て
上げようとする。
その演出のために女性をバイトで雇おうとするが、
なんとその女性がアイリーン・アドラー嬢だったのだ。
アドラー嬢はホームズ達に挑戦的な言葉を吐き、
去っていった。
ホームズ達は亡命事件の謎を解くために
闘志を燃やすのだったが…ごふっ、ごふごふっ!

 
  

はっ!
今、兄さんの身に何かが!?

そんなことはどうでもいいっ!

 
 
どうでもいいとはなんだっ!
兄さんの身に何があってもいいと
いうのかっ!
別にいいよっ!
赤の他人だしっ!
 
   

き、君には赤の他人かもしれないがなっ!
僕にはかけがえのない肉親なんだっ!
今度そのような口を聞くと許さんぞっ!

す、すまない、さすがに言い過ぎたよ。

 
   

もし兄の身に何かあってみろ!
僕は肉親として葬式に行かねば
ならんだろう!
そうなったら、僕は知らない親戚や
兄の勤務先の人々とどう接すれば
いいのだっ!

いいかげん社会性をもてっ!

 
   

静かにしろっ!
王宮の中で騒ぐなどもってのほかだっ!

お前が騒ぎ出したんじゃないかっ!  
   

なんだとこのヒゲ舞台!

やめてください!
ホームズさんも、ワトスンさんも!

 
   
はっ…す、すまない…
ホプキンス君…いや、シャーリー。
まあ。
そうですわ、私はマッケンゼン男爵の
一人娘、シャーリー、でしたわね。
 
   

そして僕は…
そのビクトリアを優しく教え導く
家庭教師、エドガー…
はじめは単なる家庭教師と教え子の
関係に過ぎなかった二人の間には
いつしか愛が芽生えていく…

…実現性がないかわりに
犯罪性だけはあるストーリーは
いいとして、 僕はマッケンゼン家の執事、
オーギュスト、だったね。
 
 

そうして僕が…
僕が、ええと、何でしたっけ。

ええと、名前は、ペーター・シュライヒャー、
だったかな、で…

 
 

マッケンゼン家に取り付く悪霊、
それがお前だっ!

 
あっはっはっはは!
悪霊ですかあ!そうですかあっ!
 
 

…まあいい、人様に聞かれたら、
下働きの者、とでも言っておけ。
けっ。

はあいっ。
下下下下下働きー♪
 

…………………ふう、
しかしなんだな、王宮といっても
思っていたほど大きくはないな。

そりゃ我が大英帝国の王宮と比べれば
見劣りもするさ。ボヘミア国は中欧の
小国にすぎないんだからな。
 
 
しかも見たまえよ。
なんだねこの装飾品は。
見かけばかりで実際は大して
価値のなさそうなものばかりだ。
まったくここといい、ドイツといい、
オーストリアといい、中欧の田舎王族には
あきれ返るばかりだよ。
ホームズ…いえっ、エドガー先生!
私もドイツの貴族なのですわよ、
中欧やドイツの悪口はおやめくださいませ。
 
 

そ、そうでしたシャーリー君、
このとおり、あやまるよ。
君の祖国の悪口を言ったりして。

うふふ、それにですわ、先生。
ボヘミア王家の悪口を言うと、
そのまま大英帝国の悪口にも
なりますのよ。
 
 

ええっ、なぜだい?

ご存知ありませんの?
いまの大英帝国の王家、ハノーファー家は、
もともとドイツのハノーファーの選帝侯ですのよ。
そして、ボヘミア王家とも縁続きなのですわ。
なぜこのようなことになったかといいますと、
そもそもはエリザベス女王陛下の御世に
御子がなかったエリザベス女王陛下が
後継にスチュアート王家のジェームズ一世
陛下を指名なされたことに始まるのですわ。
そのジェームズ一世陛下の姫君、
エリザベス様がボヘミア王家に嫁がれ、
その姫君のソフィア様がハノーヴァー
選定侯家に嫁がれ、その御子の
ジョージ一世陛下が、アン女王陛下の
後継に指名なされて、大英帝国の
玉座に就かれたのですわ。
そのジョージ一世陛下の御子が
ジョージ二世陛下、 ジョージ二世陛下の
御子がプリンス・オヴ・ウェールズで
あらせられたフレデリック・ルイス殿下、
そのフレデリック・ルイス殿下の御子が
ジョージ三世陛下、その御子のケント公
エドワード殿下の御子が、ビクトリア女王陛下
なのですわ。
ですから、 ボヘミアの悪口をおっしゃるのは
そっくりそのまま、ビクトリア女王陛下の悪口に
なるのですわ。
 
 

あっはっはっはっはっは!
これはまた一本とられたなあ!

うふふふふふふふ!  
 

あはははははは!

…へどが出るわっ!  
 

まったくですねえ。

あっ!
あれは…
 
 

…だから、パーペン、
私は現在そのような気分にとても
なれないのだ。

ヴィルヘルム・ゴッツライヒ・
ジギスモント・フォン・オルムシュタイン
ボヘミア国皇太子!

 
 

こんなところに隠れてやがったか!

王宮なんだから、
いても不思議じゃないだろう。

 
 

妃をむかえるなど、まだ早い!
…叔父上にもそう言っておいてくれ、
パーペン。

あ、あの…  
 

…おや、こちらは?

ヴィルヘルム・ゴッツライヒ・
ジギスモント・フォン・オルムシュタイン
ボヘミア国皇太子殿下、
お初にお目にかかります。
ハノーファーのマッケンゼン男爵家の
シャーリーと申します。

 
 
ああ…遊学の途中で立ち寄られたという…
どうですか、ボヘミアは。
ええ、とっても素敵な国ですわ。
町並みがたいへん美しいですし、
それに、
ヴィルヘルム・ゴッツライヒ・
ジギスモント・フォン・オルムシュタイン
ボヘミア国皇太子殿下に
お会いできましたし。
 
 
はっはっは、それは光栄です。
どうか、このボヘミアを存分に
楽しまれんことを。
美しく成長されたレディと
なったその日に、
思い出していただけるように…

まあっ。

 
 
それでは、失礼いたします。
ありがとうございます、
ヴィルヘルム・ゴッツライヒ・
ジギスモント・フォン・オルムシュタイン
ボヘミア国皇太子殿下…。
 
 

ギリギリギリギリギリギリ
ギリギリギリギリギリギリ
ギリギリギリギリギリギリ

素敵な方ですね、
ヴィルヘルム・ゴッツライヒ・
ジギスモント・フォン・オルムシュタイン
ボヘミア国皇太子殿下…。
 
 

ギリギリギリギリギリギリ
ギリギリギリギリギリギリ
ギリギリギリギリギリギリ
ギリギリギリギリギリギリ
ギリギリギリギリギリギリ
ギリギリギリギリギリギリ

高貴な方ですのに、
ちっとも厭味らしさを感じさせないで…
 
 
ギリギリギリギリギリギリ
ギリギリギリギリギリギリ
ギリギリギリギリギリギリ
ギリギリギリギリギリギリ
ギリギリギリギリギリギリ
ギリギリギリギリギリギリ
ギリギリギリギリギリギリ
ギリギリギリギリギリギリ
ギリギリギリギリギリギリ
ギリギリギリギリギリギリ
ギリギリギリギリギリギリ
ギリギリギリギリギリギリ
ギリギリギリギリギリギリ
ギリギリギリギリギリギリ
ギリギリギリギリギリギリ
ギリギリギリギリギリギリ
ギリギリギリギリギリギリ
ギリギリギリギリギリギリ

あれ?
ホプキンス…いやシャーリー様、
なんだか顔が赤いですよ。

 
 

ギリギリギリギリギリギリ
ギリギリギリギリギリギリ
ギリギリギリギリギリギリ
ギリギリギリギリギリギリ
ギリギリギリギリギリギリ
ギリギリギリギリギリギリ
ギリギリギリギリギリギリ
ギリギリギリギリギリギリ
ギリギリギリギリギリギリ
ギリギリギリギリギリギリ
ギリギリギリギリギリギリ
ギリギリギリギリギリギリ
ギリギリギリギリギリギリ
ギリギリギリギリギリギリ
ギリギリギリギリギリギリ
ギリギリギリギリギリギリ
ギリギリギリギリギリギリ
ギリギリギリギリギリギリ
ギリギリギリギリギリギリ
ギリギリギリギリギリギリ
ギリギリギリギリギリギリ
ギリギリギリギリギリギリ
ギリギリギリギリギリギリ
ギリギリギリギリギリギリ
ギリギリギリギリギリギリ
ギリギリギリギリギリギリ
ギリギリギリギリギリギリ
ギリギリギリギリギリギリ
ギリギリギリギリギリギリ
ギリギリギリギリギリギリ
ギリギリギリギリギリギリ
ギリギリギリギリギリギリ
ギリギリギリギリギリギリ
ギリギリギリギリギリギリ
ギリギリギリギリギリギリ
ギリギリギリギリギリギリ

 
い、いやですわペーター、
そんなこと、ありませんわよ。
 
 

ゴリ

歯ぎしりのしすぎで
歯がなくなったようだな。

 
 

ふはふっはっは、
ひはひほのほうなほほほも
はほうはほ、ほうほうほひひゅひゅ、
「ほひゅはひゅひゃ」 ひゃ、ひゃひゅひょひゃ!

何を言っているかわからないよ。

 
 

はっ!
はっはっは、このようなこともあろうかと
身につけておいた、
東洋の歯生え術「ヌブリガワ」さ!

もう、なんだっていいよ。
 
 
それにしても
アイリーン・アドラー嬢といい、
ヴィルヘルム・ゴッツライヒ・
ジギスモント・フォン・オルムシュタイン
ボヘミア国皇太子といい、
ボヘミアにはいけすかん奴ばっかりだ!
やはりこれはボヘミアという国の空気が
そうさせるのだろう。
ああ、こんな国に長くいたら、
ホプキンス君までけがれてしまう!
一刻も早くロンドンの美しい
スモッグまみれの空気の世界に帰らねば!
そうは言ってもずいぶん
かかりそうだよ。
 
  
よし、下働き、
今すぐダッシュで
ロンドンの空気一年分買って来い!
はあいっ!  

 

ようやくボヘミア宮廷にもぐりこんだ
ホームズ達!そろそろみんないやになってきている
ところだろうと思われますが、
つづく!

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