【これまでのあらすじ】
悪の総帥モリアーティ教授を降霊術で
呼び出そうとしたホームズたちだが、
ボヘミアに行くことにする。
稀代のハガキ職人アイリーン・アドラー嬢の
ボヘミア亡命を阻止するためだ。
パスポートも無事取得してボヘミアの王都
プラハにやってきたのだが、
聖ヴィート教会の地下迷宮でホプキンス警部が
謎の怪人物に誘拐される。
何とか助け出したホプキンス警部を男爵令嬢に仕立て
上げようとする。
その演出のために女性をバイトで雇おうとするが、
なんとその女性がアイリーン・アドラー嬢だったのだ。
アドラー嬢はホームズ達に挑戦的な言葉を吐き、
去っていった。
ホームズ達は亡命事件の謎を解くために
闘志を燃やすのだったが、なんと衆人環視の場で
ヴィルヘルム・ゴッツライヒ・
ジギスモント・フォン・オルムシュタイン
ボヘミア国皇太子が失踪してしまったのだ。

 
  

ワトスン君…僕は時々思うんだ。
僕がこの職業を選んだことは
とんだ間違いだったかもしれないと…

まあ僕にも
そう思うことは時々あるよ 。

 
 
まあそうだろう。
君も僕も普通の職業なら
見なくてもすむ、人間の切り身や
ウェルダンを見続けなければならない
因果な職業だからね。
だいぶ気持ちの悪い言い方だなあ。  
   

時々思うんだ。
本当の僕はこんなことを
仕事にしてるんじゃなく、
ストラドフォードの観光客相手に
ヒヤシンスやマリーゴールドを売りさばく
可憐な花売り娘だったんじゃないかと…

それは違うと思うが。

 
   

本当の僕は…
花につつまれた可憐な生活を
おくる、ジェニファー・スコット
なんだ… 。

おいおい。
 
   
朝ごはんは
納豆にカーネーションごはんに
バラのおひたし…。
食うのかよ。
 
   

花屋に出かけるときには
愛用のカスミソウバイク…。
直列6気筒のノジギクエンジンが
ここちよいポインセチア・エグゾースト・
サウンドを奏でてくれる…。

なんだエグゾーストサウンド。

 
   
そんな…花につつまれた生活を…
あいつが…あいつが踏みにじって…
誰が。  
   

ヴィルヘルム・ゴッツライヒ・
ジギスモント・フォン・オルムシュタイン
ボヘミア国皇太子!
私は…ヴィルヘルム・ゴッツライヒ・
ジギスモント・フォン・オルムシュタイン
ボヘミア国皇太子を許さない!

完全に話がおかしくなってるぞ。  
 

ふーむ、
ヴィルヘルム・ゴッツライヒ・
ジギスモント・フォン・オルムシュタイン
ボヘミア国皇太子が消えた現場に
いた人々に話を聞いたがまったく
手がかりになりそうなものはないな。

前触れなく話を戻すなよ。

 
 
とにかくこういう場合はだ、
ヴィルヘルム・ゴッツライヒ・
ジギスモント・フォン・オルムシュタイン
ボヘミア国皇太子が消えて得をする
人間を洗うことだ。それが一番
てっとりばやい。
 
一国の皇太子をただ消しても
得をする奴らはいるのかね。
 
 

そうだな、まずヴィルヘルム・ゴッツライヒ・
ジギスモント・フォン・オルムシュタイン
ボヘミア国皇太子がいなくなれば、
王族の誰かが王位を継ぐことになる。
そいつらが利益を得るのはまちがいないな。

王位継承順位でいうと、
ヴィルヘルム殿下の叔父上にあたる、
カール公爵、その子息のカール殿下、
そして伯母上のエリザベート大公夫人、
その令嬢のエリザベート大公女などが
継ぐことになるでしょうね。
 

うむ、そのカール公爵が、息子である
カールのために王位をねらったのか、
息子であるカールが父のカールに内緒で
王位をねらったのかそれとも両方のカールが
結託して王位を…ハア

どうかされました?  
 
なんだって外人は
自分の子供に自分と同じ名前を
つけるんだっ!
ややこしくて仕方ないだろうっ!
お前も外人だろうがっ!


 
 

こんなことなら
第二次世界大戦で勝っておけば
よかったのだっ!

まだ第一次も起こってないわっ!
 
 

まあそれはともかくだ。
ほかにはなにかいるかね。
たとえばヴィルヘルム・ゴッツライヒ・
ジギスモント・フォン・オルムシュタイン
ボヘミア国皇太子を恨んでいるような…

さあ…
あんな、人格高潔で容姿端麗で
頭脳明晰なヴィルヘルム殿下を
恨むような方なんて、この世の中に
いらっしゃいませんわ!

 
 

…ほう…そうか…ね…。

いるなあここに。  
 

いや…まあ…しかし…
人間というのはだな…
いろんな面があるからなあ…

あの…春の日差しのようなあたたかさで、
私をつつんでくださった…あの方が、
そんな誰かの恨みを買うなんて…
考えられませんわ!
 
 
そう…かね…
つつんだのかね…
もうひとり、重要な人物を忘れてないかね
ホームズ。
 
 

……………………。

ホームズっ!

 
 

わあっびっくりしたっ!

アイリーン・アドラー嬢だよ、
あの目的がわからないハガキ職人の
狙いはこれだったんじゃないかね?

 
 

うーむ。
いや忘れていたわけではないんだ。
ただ思い出そうとしなかっただけだ。

余計悪いよ。

 
 

だが、今回のことは
どうも彼女らしくない。

どういうことだい?
 
 
彼女はハガキ職人だ。
自ら表には出てこないが、
何らかの形で名を示そうとするはずなんだ。
ところが今回の事件はただ単に
消えただけだ。何の痕跡も無い。
完全犯罪をねらうのなら申し分ないが、
彼女の作品としては失敗だ。
なるほど…となると、
やっぱり利益を得る人間を洗わないと…
 
 
いや、もう一人大事な人間を
思い出してもらおう。

え、誰だい?

 
 
モリアーティ教授だ。

モリアーティ教授!

 
 

そうかっ!
モリアーティ教授がっ!

誰でしたっけそれ!

 
 

死にさらせボケっ!

たしかに…犯罪の芸術家、犯罪の完璧主義者、
犯罪のプレイボーイ、犯罪のDonDokoDonぐっさん、
犯罪の日曜大工、犯罪のトレジャーボートの名を
ほしいままにする、モリアーティ教授なら、あるいは
可能かも…
 
 
まだ断定はできないがね、
一つの可能性としては、だね。

しかし、皇太子をさらって、モリアーティ教授に
いったい何の得があるというんだい?
身代金かい?

 
 

たしかに、即位を間近に控えた
皇太子の身柄となれば、
ボヘミア国からいくらでも搾り取れるだろう。
だが、もし犯人がモリアーティ教授なら…
もっと恐ろしいことが…

 

恐ろしいこと!?
いったいなんですの!?

 
 

…まだ、たしかなことは言えないがね…

たったったったったたっ!
ホームズさんっ!
たいへんですっ!ボヘミア国首相のところに
今回の事件の犯人からの手紙が
届いたそうですっ!
それで、首相がホームズさんにお会いしたいとっ!

 
 

どうやら、動き出したようだよ、
ワトスン君、ホプキンス君、
レストレード君!

いったいどんな内容なんだ!

 
 

もしも僕の推測が当たっていれば、
君たちの想像もつかない内容だ!
さあ、ホプキンス君も!

…なんだか、今日のホームズさん
かっこいいですね。
 
 
ふっ、何を言ってるんだ!
さあ行くぞ!
おい、ホームズ落ちたぞ、
『ツカダのフレッシュドーピングシリーズ
元気ハツラツワン!探偵用40錠入り』。
 
  

おうっ!

すごいなあツカダ。  

 

はたして首相の元に届いた手紙の
驚くべき内容とは!? つづく!

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