【これまでのあらすじ】
悪の総帥モリアーティ教授を降霊術で
呼び出そうとしたホームズたちだが、
ボヘミアに行くことにする。
稀代のハガキ職人アイリーン・アドラー嬢の
ボヘミア亡命を阻止するためだ。
パスポートも無事取得してボヘミアの王都
プラハにやってきたのだが、
聖ヴィート教会の地下迷宮でホプキンス警部が
謎の怪人物に誘拐される。
何とか助け出したホプキンス警部を男爵令嬢に仕立て
上げようとする。
その演出のために女性をバイトで雇おうとするが、
なんとその女性がアイリーン・アドラー嬢だったのだ。
アドラー嬢はホームズ達に挑戦的な言葉を吐き、
去っていった。
ホームズ達は亡命事件の謎を解くために
闘志を燃やすのだったが、なんと衆人環視の場で
ヴィルヘルム・ゴッツライヒ・
ジギスモント・フォン・オルムシュタイン
ボヘミア国皇太子が失踪してしまったのだ。
そしてボヘミア国首相に犯人からの手紙が届く。
「皇太子の身柄は我々の手の内にある。
3日の間の完全なる静寂を望む・K」…
その翌日、ホームズは首相を聖ヴィート教会近くの
民宿に呼び出す。
プラハの地下迷宮を探索するホームズ達、
なんとその迷宮は王宮につながっていた!
そして迷宮の奥から聞こえる不気味な声の巨人は
レストレード警部の活躍によって倒されたのだった。
そしてその前にヴィルヘルム・ゴッツライヒ・
ジギスモント・フォン・オルムシュタイン
ボヘミア国皇太子が現れる。
ヴィルヘルム・ゴッツライヒ・
ジギスモント・フォン・オルムシュタイン
ボヘミア国皇太子と巨人の正体であるハンス・
ハイデッガー少年は、ある 目的で今回の事件を
計画したというのだ。
そしてそこに、アドラー宮内大臣が現れるが、
実の娘、アイリーン・アドラー嬢の手によって倒れるの
であった。



  

多いっ!多いぞっ!
何もかもっ!

もう何がなにやらさっぱりわからないよ。

 
 
うむ、いいね。そのわかってない顔。
無知でそれでいて傲慢な一般大衆を
一身に集約したような顔だよ。
思わず僕のキャメラに収めたくなるよ。
なにがキャメラだ。  
   

事件のあらましから
お話しよう…

あっこらっ!
なにを勝手に語りだしているんだっ!
これだから王族という奴はっ! 臣下じゃないから信義を知らんと
吉川英治もよく言ったものだ!

 
   
私が、ハイデッガー君とアイリーン嬢に
協力してもらった計画、
それはこのアドラー宮内大臣の野望を
阻止する計画だったのだ。
 
く、宮内大臣が、一体なにを…
もしやボヘミア王室転覆の計画などでは…
 
   
そうともいえる。
アイリーン嬢は、父の大臣にそういった
考えがあることを前々から気づいていたんだ。
だから私の計画にも乗ってくれたのだ。
父はとんでもない考えに取り付かれていました。
自分の立場などはそれを達成するための
道具に過ぎないと…
私はそんな父の姿を見るのもいやでしたわ。
あの立派だった父があんなおぞましい計画を…
 
   
いったい…
アドラー宮内大臣の王室転覆の
計画というのは、なんなんですか?

その答えがこれさ。

 
   
こ…これは…
もしかして…
ハガキ?
 
   

そう、アドラー宮内大臣もまた、
ハガキ職人だったのだ!

またかよっ!もういいよっ!  
 

ただ、そのハガキはただのハガキじゃない、
よくさわってみるんだ。

そういえばなんだかごわごわしていて分厚いな。
こんなハガキ売ってても買わないよ。

 
 
売っているわけがない。
作ったんだからな。
 

作った?

 
 
紙と言うのは木からとった繊維を
漉くことによって出来るものだ。
だから、いったん紙の繊維をばらばらにして
もう一度すいても紙が出来る。
その仕組みを応用したものだ。
そのハガキは元は牛乳パックだったのだ。
はあなるほど。で、これが?  

そのハガキを作ったのが、
誰あろう、アドラー宮内大臣なのだっ!

……………。  
 

アドラー宮内大臣が、
「チャレンジ!・エコ奥様」などという
いかがわしいグループと関係を深めて
いった経緯を知った私は愕然とした。
彼はそうやって作ったハガキを使って
各地の雑誌などに投稿を始めた。
牛乳パック以外のさまざまな紙、
新聞、古文書、政府機密文書などを
再利用して…そのうち、彼のネタは
内容そのものよりハガキ自体にこだわる
ようになっていったのだ。

間違ったハガキ職人、というわけさ。
 
 
職人…違いだったのですね…。
どーでもいいような話だが。  
 

そしてついにアドラー宮内大臣は、
あるおそるべき計画を思いついた。
それは、このボヘミア王室を破滅に
追い込みかねない計画だった。
つまり、明日だ。明日の大蔵の儀…
そこではすべての大臣と、王族が集まり
王宮の宝物庫の中を公開する…。
それを取り仕切るのがアドラー宮内大臣だ。
彼はそのどさくさにまぎれて、ある宝物を
盗み出そうとしていたのだ。

それは…いったいなんですか殿下。
 
 

王家伝来の、 牛乳パックだ。

あ、あの!
わが王朝の始祖、フリードリヒ1世陛下が、
張り込みをした際に、アンパンとともに持たれていた
牛乳のパック!
 
 

国王が何の張り込みだっ!

父は宮内大臣に就任した際に王室の収蔵品目録で
それを発見して以来
取り付かれた様になりました。
王家の秘宝の牛乳パックでハガキを作り、投稿する…
そんな恐ろしい野望に…
 
 
しかし、宮内大臣といえども
宝物庫を開けられるのは非常時と
新国王即位前の大蔵の儀だけだ。
父が病気になり、長くはないとわかった時に
大臣は必ず計画を実行に移す。
それを防ぐための計画が、今回の私の
誘拐騒ぎだったわけだ。

なるほど、皇太子がいなくなれば、
大蔵の儀は開けない。
そういう計画ですか。

 
 

いや、それも長くは出来ない。
私の失踪が長引けば、新たな国王が
選ばれるだろう。
国家のために長い空位は許されない。
特に叔父などの王位を狙う連中が
たくさんいる。
私は王位に執着するつもりはないが、
それで伝来の秘宝が盗まれるとなれば
話は別だ。
それは王家の先祖に対する侮辱、国家
国民に 対しての裏切りとなるからだ。

牛乳パックぐらいいいんじゃないかなあ。  
 
そこで、私たちが取った方法…
それが君の目の前から消えた方法、
なのだよ。ホプキンス警部。
ええっ!?どういうこと!?  
 

これさ。

ああっ!?
 
 

き、消えた!!

え、いるじゃないですか。
 
 
そう、レストレード警部が、大男、
ハイデッガー君を殴ったもの…
そしてハイデッガー君を大男に
見せていたもの…
私の消失トリック…
それはすべて…
すべて?  
 
これさ。

またハガキかよっ!

 
 
このハガキを水にとき、粘着剤を
くわえる…すると、紙粘土が出来る。
この紙粘土で、マントの裏に、部屋の壁
そっくりの模様を作る。そうすれば、一瞬の
隙をついて、いなくなったように見せることが
可能なわけだよ。

ほんとかよ。

 
 

いえ…殿下なら可能です。
とても手先が器用ですから。

器用たって限度ってもんがあるだろうが。

 
 

しかし、私でも作るのが
困難なものはあった。
それが、王家の秘宝の牛乳パックだ。
ニセの牛乳パックをアドラー大臣に
盗ませようとしたが、それには時間がかかる。
それに、アドラー大臣に気づかれては
元も子もない。だからこの地下迷宮を
工房にしてこもることにしたんだ。

で、アドラー嬢とハイデッガー君の役目は?
 
 
材料のハガキをいっぱい持ってきて
もらったんだ。

…いや、ハガキ職人だけどなあ。

 
 

それと、
ハイデッガー君は、大男に化けて
侵入者の排除…
私は王宮内で父の動きを
監視していました。

しかし、ホプキンス警部も全く君の姿を
見掛けなかったって言うぞ。

 
 

簡単には見つかりませんわ。
私はそこにいたんですから。

そこ?

 
 

レストレード警部が、殴るのに使った、
その大理石の石像ですわ。
それも、紙粘土で作ったんです。

まあ、皇太子消失トリックに比べたら
納得は出来るけどなあ。

 
 

私は、もしもの際には、どんなことがあっても
父を止めるつもり でした。
…命に…代えても。
ですからこの…
ピストルも…紙粘土で…

できんのかよっ!
 
 

だからこのアドラー大臣も
命まではとられずにすんでいるわけだ。

ううう…おのれ…  
  

去るがいい、アドラー。
私は国王即位後にお前を追放する
つもりだったが、こういう事態になっては、
お前にも覚悟があろう。
もはやボヘミア王国にも、世界中の投稿界にも、
お前の居場所はないのだから。

くっ!お、おぼえておれっ!  
  さあ、僕たちも去ろう。
何しろこの地下迷宮も紙粘土で
できているからいつまでもいたら危ない。
ここもかよっ!!  

 

なんだかとてもしょうもない真相が!
でもまだつづく!

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