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まあそうだな。 | |
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あんなに暑かった夏の日には、こんな日が来るとは思わなかったよ。 |
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もう30年以上生きてるんだから、そろそろ四季というものに慣れろよ。 |
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石炭時代だからススだらけだけどな。
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なんだよ。 |
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思い出すなよ。 |
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さすがにあの頭の固いスコットランドヤードもミルヴァートンが死んだと認めずにはいられなくなったようだな。
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かたいやわらかいのレベルじゃないなあ。
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だが、ミルヴァートンの生死確認に二ヶ月もかかってしまったからな。
いまごろ犯人はとっくに高飛びだろう。 |
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まあそうだろうな。 |
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まったくひどい事件だった。
私はこの事件のことを心の奥底のファイルに入れて、決して思い出さないようにするだろう。 | | |
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…捜査とかはもうしないのか? |
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何を言ってるんだね。
もう2ヶ月の間も犯人を野放しにしてきたんだぞ。気の利いた犯人ならとっくに証拠を隠滅してる。国際的な犯人引渡し協定の存在しない20世紀初頭の時代だから高飛びされれば手の出しようもない。
つまりいくらがんばっても無駄ってことさ。 |
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…ひとつ聞いておきたいんだが、その2ヶ月の間、君は何もしてなかったのか? | |
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だってミルヴァートンがまだ死んだかどうかもわからないうちに動くわけにはいかないじゃないか。
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誰が見ても死んでただろうが! |
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だが、スコットランドヤードはそう断定しなかった。僕も70パーセントは死んだと思っていたが、もし生きていたらと思うとうかつに聞き込みにも行けなかった。 |
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なぜそこで遠慮する。 |
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ミルヴァートン恐喝被害者コンテストも、ヤードが賞金を出してくれないので開催できなかったしな。万策尽きたのだよ。
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二つぐらいしか策なかったのかよ。
2を万と言うな。 |
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ホームズはそんなワトスンの言葉を聞き流し、窓の外に目をやった。クリスマスの準備に忙しい人々が往来する街並みに、この稀代の名探偵はいったい何を思うのだろうか。
近づいた聖夜を前に、ベーカー街の下宿には穏やかな空気が流れる。
だが、恐怖と戦慄に満ちた謎多き事件から、この名探偵が解放されるこの時間がそう長く続くとは思えない。―――彼もひょっとしたらそうなることを望んでいるのかもしれないが―――
遠くで、ウェストミンスターのミサの鐘が鳴り響いた。
ホームズはその音をかみ締めるように眼を閉じて、パイプに火をつけた。 |
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無理やり終わらそうとするな! |
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廻船問屋鳴海屋の一人娘、おみつがかどわかされた。
平次とホームズと八は鳴海屋の商売敵であるオランダ東インド会社が怪しいとにらむのだが…。親思いの美女を狙う謎のオランダ人!プランテーションと家内制手工業の間でゆらめく社会構造の変化とは?
次回、「平次死す!」お楽しみに!
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何の次回予告だ!
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次の話に行くな! |
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とたとたとたとたとた。
ホームズさんホームズさん、
お手紙ですよ。
とたとたとたとたとた。
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ああハドソン夫人まで。 |
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お、なんだねこの僕に手紙とは。
珍しい。これは何か事件のにおいを感じるよ。 |
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さっきの事件の残り香はどうした。 |
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ふーむ。差出人の名前は書いてないようだが、たいへん上質な封筒に美しい筆跡。インクも高そうだ。おそらくこれを書いたのはかなり裕福な、だが貴族ではないな。ブルジョアの初老の男当主といったところかな。 |
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何かから逃れるように普段やりなれないことをやっているな。
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ええと、なになに、
「拝啓、ホームズ様。突然の手紙をお許しください。
ですが、この手紙があなた様の手に渡るということは、私はすでにこの世にいないでしょう…」 |
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えっ!?
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うーむまぎれもなく事件だ事件!
事件のことを忘れるには事件に限る!
事件だ事件だヒャッホーイ!
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さすがにこの手紙を書いた人もこんな読まれ方をするとは思ってもいなかったろうなあ。 |
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「私はある男から恐喝されています。その男の恐喝に私はかれこれ数十年も従わされてきました。」
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恐喝…。ミルヴァートンか? |
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もう忘れたのかっ! |
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「ですが、もう限界です。私はその男に復讐するつもりです。しかしその男は一筋縄で倒せる相手ではありません。私の復讐は失敗するでしょう。そうなった時に、わたしの復讐を託せる相手は、稀代の名探偵、シャーロック・ホームズさん以外には考えられないのです。」 |
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恐喝の被害者というのは、もうまわりのことが見えなくなって、広い視野で考えることができなくなるというからな。 |
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「私はこの手紙を弁護士に託しました。あの男に気づかれないように、いろいろと手をつくしたルートで接触しました。弁護士も私のことを知らないでしょう。私は生きている間に、毎週タイムズの求人広告欄に小さな広告を出していました。それが途切れた時に、この手紙を出すように弁護士に頼んでおいたのです。」 |
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うーん。
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「私が、あの男に脅され続けた理由はここでは述べられません。しかし、長きに渡る付き合いの中で、あの男の弱点をつかむことができました。このことを公表されればあの男は破滅するでしょう。しかし、それとともに私も破滅してしまいます。あの男は自分だけが破滅するようなことにはけっしてしないでしょうから。
」 |
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うーむよっぽど執念深い相手らしいな、相手は。 | |
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「私は、あの男と対決し、あの男が私から奪った数十年の時間を取り戻そうと思います。私は老人ですが、まだ銃を握ることはできます。ですが、あの男もただ者ではありません。あの男の銃の腕は私に劣るとは思えず、また私の中にはあの男を殺すことに対してのためらいが残っています。ですから、復讐の仕上げをホームズさんに託したいのです。」
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うーむ。
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「まもなく二通目の手紙が届くはずです。
その中にはあの男の秘密が入っています。どうか、それを使ってあの男への私の復讐を遂げさせてください。
――――死にゆく者より
」 |
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これはいったい… | |
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とたとたとたとたとた。
ホームズさんホームズさん、
お手紙ですよ。
とたとたとたとたとた。
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ほんとに間もないな。
恐喝の証拠か? | |
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うむ、さっきと同じ封筒に同じ筆跡…。
だが、えらくぶあついな。どれどれ。 |
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あれ?中に封筒が?また手紙か?
あて名は… | |
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ジェームズ・モリアーティ教授!
モリアーティ教授!?
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な、内容はどうなってるんだい!? | |
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「親愛なるジェームズへ
私のこの胸の熱い思いをおさえ続けることはどうしてもできません。私のただひとつの願いはあなたの腕の中で眠ることです。非常識で、はしたない私のこの思いを受け止めてください。」 |
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ラ、ラブレター? |
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「あなたのもの
チャールズ・オーガスタス・ミルヴァートン
」
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ミルヴァートン!?ミルヴァートンのラブレター!? |
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とたとたとたとたとた。
ホームズさんホームズさん、
お手紙ですよ。
とたとたとたとたとた。
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ま、またか!? |
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で、内容は!?
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| いっぺんに送れっ! |
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