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これまでのあらすじ・
ホーシャムのジョン・オープンショーという青年の伯父は、五つのオレンジの種を同封した手紙を受け取った後に変死した。
オレンジの種五つを符牒とする秘密結社の手による犯行だと見抜いた天才少年探偵・シャーロック・ホームズだが、オレンジの種五つを符牒とする秘密結社は324あったのだった。
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誰が少年探偵だ誰が。 | |
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ともかく、この手紙だけだとらちがあかんな。
ジョン・オープンショー青年がまもなく来るはずだが。 |
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大丈夫かねえ。 |
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いや、君の推理が正しいとすると、オープンショー青年も秘密結社に監視されているんじゃないのか。
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その可能性はあるだろうな。伯父が残した秘密をオープンショー青年も知っていると考えても不思議はない。
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そう考えた秘密結社が、この事務所に来る前にオープンショー青年を消そうとしてもおかしくないんじゃないか。 |
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そうかなあ。 |
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だいたい世の中の人間というのは秘密結社に幻想を持ちすぎだよ。
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そうなのかなあ。
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秘密結社の構成員といえども人間だ。完全に連携のとれた行動を、情報も漏らさず行うという大仕事は、並大抵の準備ではできないものだよ。それを秘密結社が絡めば、たちどころにどんなことでも、全くの秘密裏にできると考えてしまう。 |
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まあそういう思いこみはあるかもしれないなあ。 |
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だから白昼堂々と一人の青年を消すだなんてことはそうそうできることじゃないということさ。 | | |
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でも手紙を出してから今までが、ずっと白昼だったわけでもないだろう。 |
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…秘密結社の奴らだから、夜をずっと白昼にすることも、できないことではないだろう。 |
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おい。夜を昼に変えるなんてできることではないぞ。それにだいたい夜を昼にしたりして何の得があるんだ。 | |
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秘密結社のやることに理由なんかあるものか!秘密結社というのはどんなことでもできる奴らなんだ!
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おいおいおい。
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この世のことはすべて秘密結社が裏から操っているんだ!清教徒革命も、名誉革命も、産業革命もみんな秘密結社の仕業なんだ! |
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おいおいおいおい! |
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はなせっ!離すんだワトスン!さては貴様も秘密結社の一員だな!この僕を秘密結社の…うっ!
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ど、どうした。 |
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う…はあ、はあ、はあ。すまんワトスン君。ちょっと取り乱してしまったようだ。
肩に走った鋭い痛みが僕を正気に戻してくれたよ。
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そうか、その肩についているぬめぬめとした赤紫色の小動物が、君の正気を取り戻させてくれたわけだな。 |
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だから捨てるなって! |
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まさか途中で本当に何かあったんじゃ… |
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うーむ、しかし迎えに行こうにもオープンショー青年の顔を知らないからなあ。
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黙って待つしかないのか。 |
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いや、ここでこうしていても仕方がない。やはり少しでも前向きな方法をとるべきだよ。 |
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どういう方法だい? |
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これで何を?
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そしてお互いが思うオープンショー青年の顔を描くんだ。 |
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え?
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そしてお互いの描いた絵の共通点を基準にし、また二人で新たな絵を描く。そうしていくうちに、二人の描いた似顔絵が一致する!
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で?
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そうしてできたのが、オープンショー青年の顔というわけさ!
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何の理屈でそうなるんだっ!どっちもがオープンショー青年の顔を知らないじゃないか! |
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だが、これで「オープンショー青年らしい顔」の最大公約数的顔は得られる!それを使ってオープンショー青年を探すんだっ! |
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絶対に見つからないと思うぞ。 |
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そういう、やってもみないで否定する原則論者が世の中の進歩をいかに妨げてきたことか。さあ描くんだ描いてみろ。 |
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わかったよ、どうせヒマなんだから。 |
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正確な似顔絵を描くにはオープンショー青年の特徴を手紙から読み取ることだ。 |
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顔の特徴になるようなことを何か描いてたかね。
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直接的にはなくても、間接的な手がかりにはなる。たとえば筆跡によってせっかちな性格か、慎重な性格かもわかる。それでだいたいの顔のイメージもつかめるというものさ。 |
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ほう、で、筆跡は。
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わかるかそんなものでっ!
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誰が打っても同じだろうが。 | |
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そして手紙の文法や、他人に接する態度、そういったところから見抜いていくんだ。
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やっていることは高度だが、果てしなく無駄な作業のような気がするなあ。 | |
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かりかりかりかり。 | |
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いや、そこまで本格的にやる必要は全くないぞ。 | |
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エッチングやシルクスクリーンにしてどうする。 |
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しかしできあがったこの作品を見ると、思わずそれぐらいのことはしたくなるほどの芸術性だからな。
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ほう、じゃあ見せてくれよ。 |
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何だねその軽い態度は。20世記最高峰の絵画芸術を見ようという時に、そんな物言いでいいのかね。 |
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増長するにもほどがあるぞ。 |
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ほら。
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こんな顔の人間いるか!
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すいませーん。
遅くなりましたー。
ジョン・オープンショーでーす!
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| うわあ本当にいたあっ! |
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