これまでのあらすじ・
ホーシャムのジョン・オープンショーという青年の伯父は、五つのオレンジの種を同封した手紙を受け取った後に変死した。 オレンジの種五つを符牒とする秘密結社の手による犯行だと見抜いた探偵・シャーロック・ホームズだが、オレンジの種五つを符牒とする秘密結社は324あったのだった。
ホームズ達のもとにやってきたオープンショー青年は、伯父の日記の存在を思い出すが、その日記を秘密結社に奪われる懸念を抱いたホームズは、オープンショー青年を慌てて家に戻すのだった。
しかしホームズたちの懸念もむなしく、 オープンショー青年は謎の死を遂げる。
KKKの仕業であるということを見抜いたホームズたちは、オープンショー青年の敵を討つための計画を始める…。


オープンショー青年
ワトスン博士

え、KKKの仕業っていつ決まったんだ?

 
 
それは前回のことをよく思い出してみればわかるだろうに。
ホームズ
ワトスン博士
いや、そんな断定されるほどのことはなかったぞ。  
   

それは君が行間を読むという技術を持っていないからだよ。

ホームズ
ワトスン博士
そうなのか?

 
   

やれやれ、これだから無知蒙昧なヒゲは困る。今までどんな本を読んできたか知らないが、きっと内容もいい加減なんだろうな。

ホームズ
ワトスン博士 
そんなことはないぞ。僕は結構本を読むほうなんだ。  
   

じゃあ最近、どんな本を読んだかね。

ホームズ
ワトスン博士
最近ではスタンダールの「赤と黒」を読んだな。  
   

ほうそれで、そのほかには。

ホームズ
ワトスン博士

あとはドストエフスキーの「罪と罰」かな。

 
   
その二つの本の内容を一言で言い表せるかね。
ホームズ
ワトスン博士
そういわれてもなあ、長い小説だからな、ええと…  
   

もういい。ほら、行間が読めてない。
行間を読めてさえいれば、説明にそんなに苦労することはないんだ。

ホームズ
ワトスン博士
じゃあどういうことなんだか言ってみろよ。  
 
あの二つの作品の内容は、まったく同じなんだ。
ホームズ
ワトスン博士

え、いや時代設定や国から何から何まで違うぞ。

 
 

そういう表面の見えるところだけをおっていけばそういう解釈にもなるかもしれないがな。
行間を読めば二つの小説が亀の力で海に潜った男が、海底の城にでもらった箱を開けて老人になる話だとわかるんだ。

ホームズ
ワトスン博士 

そんなファンタジーあふれる話だったような気はしないぞ。

 
 
だから目に見える部分は瑣末なことなのだ。行間で読めばそういう亀話だとわかるのだ。
ホームズ
ワトスン博士

なんだよ亀話っていうジャンル設定。

 

つまり「赤と黒」と「罪と罰」は同じ小説だということだよ。

ホームズ
ワトスン博士
納得いかないなあ。  
 
むっ!
「赤と黒」と「罪と罰」…!
ホームズ
ワトスン博士

どうした。

 
 
大発見だ!
「赤と黒」と「罪と罰」との間にも、亀の力で海に潜った男が、海底の城にでもらった箱を開けて老人になる話が!
ホームズ
ワトスン博士
…まさかとは思うが、君の言う「行間」というのは、「赤『と』黒」の『と』のことじゃないだろうな。  
 

………。

ホームズ
ワトスン博士
おい、どうなんだ。  
 

そのへんは行間を読んで判断してくれたまえ。

ホームズ
ワトスン博士
やかましいっ!  
 

ともかく眉目秀麗で聡明で実直だったオープンショー青年の仇を討たねば。

ホームズ
ワトスン博士
まあ百歩譲ってKKKが犯人だったとしても、君一人でひとつの組織を相手取るのはたいへんだろうが。  
 
うむ、しかもKKKの本部はアメリカの南部だからな。ここは大英帝国のロンドンだ。南部まで行くためには大西洋を越えていかなければならない。旅費もかさむ。そこまでして仇を討ってやる必要はない。
ホームズ
ワトスン博士

ないのかよ。

 
 
あくまで気軽に、あくまでライト感覚で討てる仇こそが理想だな。
ホームズ
何がライト感覚だ。

 
 

そういうわけでKKKを調べていたら興味深いものを見つけたのだ。

ホームズ
ワトスン博士

なんだい。

 
 

このエレメンタリー・ウィーク誌の広告欄だ。見てみたまえ。

ホームズ
ワトスン博士
なになに…「キドニー街3番アパートの一室を至急売りたし…連絡乞う…K&M商会」アパートの売買情報かい?  
 
うむ、その売り出そうとしているK&M商会だよ。
ホームズ
ワトスン博士
まさか…実はKKKの隠れ蓑の会社?  
 
うむ。しかし、そういういい方は正確ではない。

ホームズ

ワトスン博士
と、いうと?  
 
KKKの隠れ蓑というより、むしろ…
ホームズ
ワトスン博士
むしろ?

 
 
KKKのファンクラブだ。
ホームズ
ワトスン博士

ファ、ファンクラブ?

 
 
そうだ。この広告にピンときた僕がその部屋を調べてみたところ、ファンクラブだということがわかったのだ。
ホームズ
ワトスン博士

よくこの広告でピンと来たな。

 
 
部屋の中にはKKKへの熱いメッセージや、KKKのメンバーのイラスト、そしてファンクラブ通信…
ホームズ
ワトスン博士
ほんとにファンクラブだなあ。
 
 

その中で見つけたのが、これだ。

ホームズ
ワトスン博士

こ、このビンは…

 
 
そう、中にびっしりとオレンジの種が詰まったビンだ。
ホームズ
ワトスン博士

なんだか気持ち悪いな。

 
 

これこそがあのオレンジの種だ。間違いない。

ホームズ
ワトスン博士

確かに見た目は同じだが…。でも、本体ならいざ知らず、ファンクラブがあんな犯行をするかね?

 
 
それはわからない。しかし、ここでひとつの重要な証拠を見つけたのだ。
ホームズ
ワトスン博士
え、証拠って?  
 

これだっ!

ホームズ
ワトスン博士
こ、これは…  
 
そう、KKKファンクラブ通信だ!
ホームズ
ワトスン博士
…おい。  
  
このファンクラブ通信の公演情報欄を見るんだっ!
ホームズ
ワトスン博士

え?

 
 

 

見ろ!
KKKメンバーの来英公演予定だっ!

ホームズ
ワトスン博士
ミュージシャンかっ!  

 

どえらいこってす!つづくそうおす!
次回のホームズの活躍があればお楽しみに!

襟裳川ミステリ文庫トップへ

SAKANAFISHホームへ