}【これまでのあらすじ】
ある寒い日、ホームズは昔の事件を語り出した。
大学時代の同級生レジナルド・マスグレーヴに関する事件だ。
ある日、マスグレーヴはロンドンベイカー街にあるホームズの事務所を訪れた。
地方選出議員も務めるマスグレーヴ家の執事とメイドがいなくなったというのだ。
愛妻ホプキンス警部のお出かけのキスをうけたホームズは、西サセックスのハールストンにあるマスグレーヴ家の屋敷に到着し、マスグレーヴ家に伝わる儀式の謎をあっという間に解き、地下室に入るとそこは古のカレーうどん店だったのだ。

若いホームズ
ワトスン博士

古にカレーうどん店なんかあったのかよ。

 
 
今、現在と思っていることも、思った瞬間に過去になる。カレーうどん店の存在も、過去のものでしかないのだよ。
若いホームズ
ワトスン博士

いや、そういうことではなく。

 
   

うどんは日本の伝統食だが、少なくとも南北朝時代には成立していたという。一方で、カレーのもととなる香辛料料理ははインドで古くから食べられていた。だからイギリスの古にカレーうどんがあっても何の不思議もないだろう。

若いホームズ
ワトスン博士
古のイギリスにカレーとうどんがあったかという説明になってねえ。  
   

ともかく、ここにこうしてカレーうどん店があるという事実はどんな学問的研究すら跳ね返してしまうのだよ。

若いホームズ
ワトスン博士 
何か釈然としないがなあ。  
   

見たまえ、マスグレーヴ。
この店はかなり繁盛した店だったようだ。

若いホームズ
マスグレーヴ
ええっ、どうしてわかるんだい?  
   

なに、かんたんなことだ。テーブルの一部の色が他と違っているだろう。これはおそらくどんぶり鉢とテーブルがこすれあった傷だ。この色の変わり具合からすると、相当多くの傷がついたことは間違いない。

若いホームズ
ワトスン博士

装飾に金掛かってんだからテーブルぐらい新しいものにしろよ。

 
   
さらに、この水を入れるためのポット。この傷付き具合は相当たくさんの客が来た証だ。
若いホームズ
ワトスン博士
大衆食堂じゃないか。  
   

ひょっとすると、マスグレーヴ家の財産はこのカレーうどん店で築かれたものかもしれないな。

若いホームズ
ワトスン博士
貴族らしさがまるでない。  
 
ふむ…しかし…。
若いホームズ
マスグレーヴ

わー。第3代ヨーク公や、ヘンリー7世陛下、それにジョージ2世陛下に、カンバーランド公ウィリアムのサインがあるよ。ということは15世紀の薔薇戦争の頃から、18世紀ごろまで営業されてたんだね。

 
 

このカレーうどん店…ごく最近に誰かが入った形跡があるな…

若いホームズ
マスグレーヴ 

ええっ、どうしてわかるんだい?

 
 
見たまえ、あの食券の自動販売機。ほとんどほこりがかかっていないうえに、何かぶつかったような痕が付いている。
若いホームズ
マスグレーヴ

ほんとだ。

 

これはおそらく、食券を買おうとしてコインを入れたが、出てこないので思わず蹴り飛ばしたのだと見える。

若いホームズ
マスグレーヴ
そういえば、おつりが出てくるところも指紋だらけだよ。  
 
そう、そしてそれはおそらく…。
若いホームズ
マスグレーヴ

うん、いなくなった秘書のものに間違いないよ。

 
 

ええええっ。

若いホームズ
マスグレーヴ
この指紋鑑定キットでしらべたのさ。  
 

うわあ金粉で指紋を調べるな。

若いホームズ
マスグレーヴ
でも、結局秘書のやつはここに何をしに来たんだろう。  
 

うむ、床にはほこりが積もっているからな。足跡を追えばその理由もはっきりするだろう。

若いホームズ
マスグレーヴ
あっちとこっちにつづいているけど。  
 

外を向いているのは出てきたときの足跡だ。中に向かっているのが来たときの足跡だろう。

若いホームズ
マスグレーヴ
なるほどー。  
 

帰るときの足跡は幅が広く、かかとが付いていない。ということは帰るときには走って出て行ったということになるな。

若いホームズ
マスグレーヴ

中で何かあったのかなあ。

 
 
しかしそれでも扉がきちんとしまっているあたりは几帳面さを感じさせるな。
若いホームズ
マスグレーヴ
あと何か三つ爪があるような足跡があるけど。

 
 

ああ、それはさっきまでそこにいたジュウシマツのものだよ。さあ足跡を追うぞ。

若いホームズ
マスグレーヴ

ふーん。足跡は奥のほうに続いているねえ。

 
 

うむ、厨房のほうだな。

若いホームズ
マスグレーヴ
あれ、何か扉に大きな穴があいているぞ。  
 
ああ、それはさっきまでそこにいたジュウシマツがクチバシで穴をあけたものだろう。
若いホームズ
マスグレーヴ

ふーん、そうか。あれ、厨房の中がぐっちゃぐちゃだよ。

 
 

ああ、それはジュウシマツが荒らした後だよ。


若いホームズ

ワトスン博士
ちょっと待て。  
 
なんだよ。
若いホームズ
ワトスン博士
まあ、このカレーうどん店の内部にいた謎の生き物がジュウシマツだったということは三百歩ぐらい譲って認めるとしてもだ。

 
 
その程度でいいのかい?
若いホームズ
ワトスン博士

なんで扉の穴とか、厨房を荒らしたのがジュウシマツで、自動販売機やテーブルの傷はそうでないとわかるんだね。

 
 

………それは、あるだろう、ほら、名工の手によって作られたものからは、名工の心が伝わってくるというあれが。そのようなものだよ。

若いホームズ
ワトスン博士

どんな心だよ。

 
 
しかし、この厨房の奥に書物と、鍋がある。
若いホームズ
マスグレーヴ
ほんとだ。あれ?中に何か入っているぞ?
 
 

こ!これは!!

若いホームズ
マスグレーヴ

もしかして!!

 
 
まさか!!
若いホームズ
マスグレーヴ

あにはからんや!!

 
 
カレー!!

若いホームズ
ワトスン博士

うるせえっ!!

 
 
そして横には見ろ!
若いホームズ
マスグレーヴ
ああっ!  
 

まさかっ!

若いホームズ
ワトスン博士
もういいっ!  
 
うどん!!
若いホームズ
マスグレーヴ
ど、どうしてカレーとうどんが…  
  
これは…おそらく…
若いホームズ
ワトスン博士

……。 

 
 

ここがカレーうどん店だからかっ!?

若いホームズ
ワトスン博士

黙っとけっ!!

 

 

あらまあえらいこってす!続くそうおす!
次回のホームズの活躍があればお楽しみに!

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