ふたご1
「事件だ事件だー!迷宮入り立てほやほやの事件だよー!」
ふたご2
「迷宮入り立てはセールスポイントになるんですか。」
ふたご1
「ローマですが。」
ふたご2
「ローマですか。」
ふたご1
「このたび銅像ができまして。」
ふたご2
「はあ。」
ふたご1
「ところがこれがとても不評でして。」
ふたご2
「そうなんですか。」
ふたご1
「モデルは優しそうな笑顔の人だったのに、銅像だととても悪そうな顔になっているのです。」
ふたご2
「それはよくないですねえ。」
ふたご1
「そんなわけなので、新しく優しそうに作りかえました。」
ふたご2
「それがいいですね。」
ふたご1
「本来そのモデルの職業からしても、怖そうな顔というのがあり得ないのですが。」
ふたご2
「そうなんですか。」
ふたご1
「全くモデルの人はローマ教皇だというのに。」
ふたご2
「………。」
ふたご1
「………。」
ふたご2
「………。」
ふたご1
「…モデルは前教皇のヨハネ・パウロ2世さんです。」
ふたご2
「…そうでしょうね。」
ふたご1
「誰が現教皇ベネディクト16世台下だと言いましたか。」
ふたご2
「誰も何も言ってはいません。」
ふたご1
「というように、銅像だからといって本人ぽく見えるかどうかは微妙な話だということです。」
ふたご2
「まあそりゃそうです。」
ふたご1
「たとえば日本では西郷隆盛と言えば上野のあの銅像を思い出しますが。」
ふたご2
「犬を連れた銅像ですね。」
ふたご1
「それを見た西郷隆盛さんの奥さんは『主人はこんな人ではない』と言ったといいます。」
ふたご2
「似てないんですか。」
ふたご1
「実際、明確な西郷隆盛の写真は残っていないのですが、着流しで犬を連れて散歩するような人ではないという意味らしいです。」
ふたご2
「なるほど。」
ふたご1
「実際日本人のもつ西郷隆盛イメージはあの銅像の影響も大きいといわれています。」
ふたご2
「何となく親しみやすそうな感じでありますからね。」
ふたご1
「しかしもし奥さんが銅像を修正するように意見を出していれば、西郷観もずいぶんかわったかもしれません。」
ふたご2
「そうかもしれませんねえ。」
ふたご1
「ですから銅像を造る際には慎重にしていただきたい物です。」
ふたご2
「でも特定のイメージを与えないというのはなかなか困難ですよ。」
ふたご1
「では楠木正成像方式をとってください。」
ふたご2
「皇居の前のあれですか。」
ふたご1
「あの像はカブトで影になっているため、顔がよく分からないのです。」
ふたご2
「そういえば顔の印象ないですねえ。」
ふたご1
「そんなわけなので、楠木正成のイメージを固定化されず、戦前は無私の忠臣、戦後は封建制度の枠にとらわれない『悪党』と様々なイメージで語られるようになったのです。」
ふたご2
「そうなんですか。」
ふたご1
「というわけで、これからの銅像は顔をわかりにくくすればよいのです。」
ふたご2
「でも楠木正成みたいにみんな兜をかぶっているわけではないですからねえ。」
ふたご1
「そういう場合はあれで。」
ふたご2
「あれ?」
ふたご1
「ほら、あの現教皇が黒猫をなでながらブランデーグラスを傾けている時に、顔が見えなくなっている闇があるじゃないですか。」
ふたご2
「現教皇に昔の映画の黒幕演出をほどこすんじゃない。」
11月23日、よみがえる勤労